日常が神話に変わる場所


ゴールデンウィーク最終日。


風は止み、世界は驚くほど静かであった。


朝、玄関前に一本の南天の枝が置かれていた。



隣家の庭から、強風によって折れ、ここまで運ばれてきたものだと分かっている。


それでも、それは単なる落下物には見えなかった。


まるで誰かが意図をもって供えたかのように、整った姿でそこにあったのである。


南天は「難を転ずる」と書く。


偶然という名の配置に、私は小さく頭を下げた。


同じ朝、家の東側では緑色の黄金虫が静かに息絶えていた。


これまで在来種の種を繋ごうと試みるたび、黄金虫の幼虫に根を食べられ、作物が育たなかった記憶がある。


生命を阻んできた存在が、東の光の場所で役目を終えていた。


そのすぐそばで、シャクナゲが真紅の花を開いていた。



店先で乾ききり、弱りきっていた株を連れ帰り、毎日水を与え続けた結果である。


枯れかけた命が蘇り、見事な花となって現れていた。


終わるものと、咲き始めるもの。


その対比はあまりにも明確であった。


昼、長くキャビネットに眠っていた三本のオーラソーマ・イクイリブリアムボトルを開封し、庭の南側にオイルを撒いた。


B10 グリーン/グリーン


B38 バイオレット/グリーン


B113 エメラルドグリーン/ミッドオリーブグリーン(大天使カシエル)


土へ還すように静かに撒いたその瞬間、巨大なクマンバチが頭上をかすめて飛んだ。



大きな羽音が一度、空気を震わせ、蜂はそのまま風鈴の音が鳴る隣家の方角へと去っていった。


恐れはなかった。


ただ、通過する存在を見送っただけである。


蜂が去ったあと、庭の空気がわずかに澄んだ。


場が整い、境界が清められた感覚があった。


夕刻、西の空は燃えるようなペールコーラルに染まった。


その静寂の中、久しく聞くことのなかった豆腐屋のラッパが遠くから響いた。


カラスの声が重なり、蝙蝠が気持ちよさそうに空を舞う。



南天の枝も、夕焼けも、家族の食卓も――日常こそが神話の続きである。


一瞬、日本の原風景がこの場所に戻ってきたようであった。


何か特別な出来事が起きたわけではない。


しかし確かに、世界の位相がわずかに変わった一日である。


私は何かを達成したわけでも、引き寄せたわけでもない。


ただ、ここに在り、起きることを見届けただけであった。


今日という日は、出来事ではなく、調律であった。


今日もまた、暮らしという名の祈りをここに記す。


木シルフェ木

オパーリングリーン阿部小百合ルチノー

 

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