ついに、ずーみーとの
「全国おしゃべり会」が始まった。
【全国おしゃべり会とは?】
「全国おしゃべり会」は、
脳卒中や障がいがある当事者やご家族、
支援者の方々が、直接顔を合わせて語り合える交流の場。
主催は、自身も脳卒中片麻痺当事者である、ずーみー。
「同じ経験をした仲間と、気兼ねなく話せる場所を全国に作りたい」
という想いから、この旅は始まった。
そして、なぜか私も、その隣にいる。
どうして、こんな流れになったんだっけ。
「支えたい」とか、そんな美しい言葉で、
私の動機を飾るつもりはない。
ただ、純粋に、「なんか、面白そう」
と思ってしまったからだ。
(ちなみに交通費は、
全額ずーみーが負担してくれている。
ご心配なく)
記念すべき最初の場所は、愛媛。
私の貧しい想像力では、
みかんしか思い浮かばなかった。
こうして、私たちの不思議な旅は始まった。
朝8時半、名古屋駅。
私は念のため、出発前にずーみーにLINEを送った。
「新幹線の切符、忘れずにね!」と。
「大丈夫!」という威勢のいい返事。
よしよし、順調だ。
長い道中、
朝からお酒を飲もうと決めていた私たち。
彼がお土産と一緒に、
私のリクエストしたビールを
買ってきてくれることになっていた。
銘柄を間違えないよう、
私はわざわざネットで画像を検索し、
「麒麟一番搾りのホワイトビール」と
「麒麟のグリーンラベル」の画像を送りつける周到さ。
完璧だった。
しばらくして、
買い物をしているであろう彼から、
LINEが来た。
一言だけ。
「財布、忘れた」
おいおいおい。 そう思ったけれど、
本人が一番パニックになっているだろう。
私は冷静に、待ち合わせ場所へと向かった。
すると向こうから、
買い物袋をぶら下げたずーみーが、
ニヤニヤしながら歩いてくる。
無事に新幹線に乗り込み、
彼が買ってきてくれたビールを取り出した私の手は、固まった。
袋の中には、全く違う銘柄のビールが2種類。
サントリーの、
ファミマ限定ホワイトビール。
アサヒの、グリーンなんとか。
色は、合ってる。
白と、緑。うん、色は合ってる。
これが、高次脳機能障害というものか。
ただの彼の性格なのか。
私には分からない。
与えられたこの環境をどう楽しむか。
これがベストなんだ。
私はこうやって、
すぐに思考を切り替える癖がある。
こうして私たちの旅は、
予定とは少し違うビールでの乾杯から始まった。
ファミマ限定のホワイトビールが美味しかった。
ほらね。全てはベストだ。
愛媛に着き、
私たちは下灘駅へ向かった。
ホームに立った瞬間、
目の前に広がる景色に、息をのんだ。
胸が、締め付けられるほど美しい。
感じたことを、何かの言葉にしたいのに、
何も思いつかない。
「キレイ」という一言では、
全然足りない。
でも、他のどんな言葉で飾っても、
この景色の前では、
すべてが安っぽくなってしまう気がした。
言葉にすることが好きなのに、
言葉にしすぎて、この感覚を汚したくなかった。
ただ、私は立ち尽くすことしかできなかった。
夜に食べた、鯛めしが、
やたらと美味しかったことだけは、
はっきりと覚えている。
ホテルに戻り、
お酒を飲みながらNetflixで「罵倒村」を観た。
「トークサバイバー」の面白さを
知ってしまっている私には、
正直、物足りなく感じてしまった。
千鳥、かまいたち、小籔、
兵頭、チョコプラ、オードリーが
本当に好き。
いつの間にか、私の笑いの基準は、
かなり肥えてしまっていたらしい。
しばらくすると、
隣でずーみーが静かに
眠りに落ちていた。
いつも不眠だと言っていた彼が、
気持ちよさそうに眠っている。よかった。
そう思ったのも束の間、彼が奏で始めた。
いびき、歯軋り、寝言の三重奏。
一人オーケストラ開演中だ。
そして、私をもう一つの苦しみが襲う。
部屋が、暑い。 冷房を強めたい。
でも、ここで寒くなってしまったら、
せっかく気持ちよく眠っている彼が
起きてしまうかもしれない。
私は、自分の布団をかけたり、はいだりを、
ずーみーのオーケストラに合わせるかのように、
数分に一度のペースで繰り返した。
結局、ほとんど眠れなかった。
次の日の早朝、私たちは散歩に出かけた。
ずーみーの頭は、寝癖で爆発していた。
ヘアバンドがない、と困っている彼に、
私は部屋にあったアメニティを差し出した。
透明のシャワーキャップを。
彼は、それを素直にかぶった。
そして、私たちはその姿で、
朝の松山の街を歩き始めた。
彼の体温と熱気で、
みるみる曇っていくシャワーキャップ。
内側には水滴がつき、
やがて汗が流れ落ちてくる。
そもそも、これを外で被っている人を、
私は人生で初めて見た。
あまりのおかしさに、
私の笑いは、もう止まらなかった。
そして、おしゃべり会、当日。
会場には、脳卒中という
大きな経験を乗り越えてきた方々が
集まっていた。
その、穏やかで、
特別な連帯感のある輪の中で、
その経験を持たない私は、
ただ一人、違う種類の生き物のように感じた。
「普通って、一体なんなんだろう」
彼らが本当に感じている痛みも、
苦しみも、その先に見つけた希望も、
本当の意味では、私には全く分からない。
共感力が強く妄想族総長の私は、
あらゆる視点から妄想を繰り広げてみた。
きっとこんな気持ちになるだろうな・・・
とは感じることはできる。
けど、実際に経験していない人から、
そんな言葉なんて言われたくないだろうし、言えない。
私が逆の立場だったら、
この苦しさ、絶望した時の気持ちは、
わかるはずがない、と思ってしまうから。
決して交わることのない、経験の断絶。
その、どうしようもない事実に、
私は、通じ合えない寂しさを感じていた。
「私、ここにいてもいいんだろうか」と。
でも、会は進んでいく。
この日のために、大好きなお菓子作りを再開して、
持ってきてくれた方の、輝いた目。
分かり合える仲間に出会うために
外に出て、嬉しそうに話す顔。
将来は企業と組んで、
こんなことを作って広げていきたい!
とキラキラ話す姿。
ホノルルマラソンに出場して、
完歩する!と力強く宣言する、
やる気に満ちた表情。
そこには、信じられないくらい、
あたたかい空間が広がっていた。
私に何ができるんだろう、
と考えていたけれど、むしろ、
私がたくさんのものを受け取っていた。
勇気も、優しさも、人の持つ強さも、
すべて、その場にいた皆さんから、
一方的にもらっていた。
だからこそ、思う。
なにか、できたらいいんだけど。
何をすればいいのかは、
やっぱりまだ、分からない。
ただ、一つだけ確かなことがある。
その日、歩きすぎた私の体は、
全身ひどい筋肉痛になった。
けど、その痛みが心地いいと思えるほど、
心があたたかく満たされていた。
本当に始まったんだなと、
この旅で手に入れた、最初の実感だった。
私のライフワークは、
「人間」を観察することです。
それは時に、
私を楽しませてくれる周りの人々への、
少し意地悪な視線になります。
そして、時にその視線は、
鋭く自分自身の内側へと向かいます。
「なぜ、私はあの時、
笑ってごまかしたんだろう?」
「HSP気質の私が、
この社会で心地よく生きるには?」
そんな私の「人間観察ノート」そのものや、
外の世界の「おかしさ」と、
私の内なる世界の「厄介さ」。
その両方を、包み隠さずメルマガでお届けしてます。
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