壱与が寝ている巴御前の側に座っている。
じっと寝ているその顔を見ている。
真魚の見立てだと、そのうちに意識が戻る。
壱与はその時を待っていた。
「お主も人が悪いのう…」
「知っておったのだろう…」
嵐が真魚に向かって言う。
「この前、壱与の爺さんに確認した…」
真魚が空を見あげた。
「爺さんの話だと…」
「壱与が二歳ぐらいの頃、突然行方知れずになったらしい…」
「三諸山の神隠し…」
「邑の者はそう呼んだようだ…」
真魚が聞いた話を説明する。
「すると…」
「三諸山で行方が分からなくなったのか…」
嵐が真魚に聞く。
「それは分からない…」
「だが、壱与の母も三諸山に祈りを捧げていた…」
「すると、壱与と同じか…」
嵐が真魚に確認を入れる。
「壱与が受け継いだのは間違いない…」
巴御前に壱与と同じ力がある。
真魚はそう見ていた。
「壱与は毎日、祈りを捧げている…」
幼き壱与の悲しみ…
壱与が三諸山に祈りを捧げる。
そのきっかけになった話である。
「しかし、なぜ…戻らなかったのじゃ…」
嵐がその事に気付いた。
「持っていかれたのかも知れぬ…」
真魚が言った。
「帰りたくても、帰れなかったのか…」
嵐が、巴御前の心に寄り添った。
「それで…」
「ここの主人に拾われたのではないか…」
真魚の考えは概ね当たっていた。
「驚いたぁ…」
「壱与のお母さんが生きていたなんて…」
屋敷の庭で浅葱が言った。
「私も知らなかった…」
綾人も驚いている。
「でも、身分が違うってわかったら…」
浅葱は巴御前を気にしている。
「それは、大丈夫です…」
「旦那様はそのような方ではございません…」
「それに…気付いておられると思います…」
綾人は浅葱に言った。
「そういう事ってあるんだね…」
浅葱がぽつりと言った。
「そう言う事って…?」
「あんたって鈍いわね…」
「身分が違っても結ばれるってことよ…」
「えっ…」
浅葱と綾人の目が合う。
「そう言えば、綾人…壱与の事…」
浅葱が話をすり替えた。
「もう良いんだ…」
「どんなに頑張っても、間が詰まりそうにもない…」
「それは、壱与が特別だから…」
浅葱が綾人に聞いた。
「私はこう思うんです…」
「人はみんな特別なんです…」
「今の私には…」
「浅葱だって特別なんだ…」
綾人が空に向かって言った。
「な、なに言ってんのよ!」
どん!
浅葱が綾人の背中を叩く。
「痛いって!」
「浅葱は力が強いんだから…」
綾人が背中を押さえる。
「ごめん…」
浅葱が空を見て謝る。
同じ空を見ている…
二人の間には…
特別な時が流れていた。
次回へ続く…
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