「わぁ…」
浅葱が、門の前で圧倒されている。
「こちらへどうぞ…」
綾人が先導する。
門をくぐると広い庭がある。
庭の真ん中には大きな池。
橋の向こうにお屋敷が見えている。
「こんなに広かったの…」
外から見るのとは大きな違い。
浅葱は初めての体験に興奮している。
池の上の橋を渡って、お屋敷に向かう。
その屋敷の濡れ縁に、一人の女性が立っていた。
それは、巴御前であった。
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべる。
壱与はその場で立ち止まった。
真魚が二人を見ている。
「さぁ、壱与様こちらへ…」
綾人が、壱与を誘導する。
しかし…
「は、はい…」
壱与は返事をしながらも、動きがぎこちない。
「壱与はどうしたのじゃ…」
嵐が真魚に聞く。
「これはひょっとすると…」
濡れ縁の巴御前と、庭の壱与…
二人の波動が、触れ合っている。
二人は、視線を合わせたまま動かない。
「壱与どうしたの…」
浅葱の声も、もう届かない。
古の記憶…
二人の中でその頁がめくられる。
お互いの…
生命エネルギーの波動が広がって行く。
「真魚、これは…」
さすがの嵐もここまでくればわかる。
二人の絆が今、再び結ばれる…
「ああ…」
巴御前が涙を流している。
「長かった…」
「これが、あなたなのね…」
「壱与…」
壱与の全て…
喜びも…
悲しみも…
巴御前は受け取った。
そして…
笑みを浮かべ、目を閉じた。
全てを噛みしめるかの様に…
胸の前で手を組んだ。
「御前様!」
綾人が声を上げた。
巴御前は、その場で崩れる様に横たわった。
「そんな…」
壱与が涙を流している。
「この世にはもう…いないと…」
壱与が立ち尽くしている。
心の中にある記憶…
それと…
流れ込んできた巴御前の記憶…
二つの世界…
それが重なった。
相容れないはずの記憶。
重なることは絶対に有り得ない。
あるとすれば…
同じ体験をした…
それしかないのである。
遠い記憶に残るその微笑み…
「お母さん…」
壱与がその面影を口にした。
倒れた巴御前の側に、綾人と真魚が駆け寄った。
埋め尽くす事の出来ない、空白の時間。
壱与はその間を漂っていた。
次回へ続く…
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