「嵐の姿が見えませぬなぁ…」
後鬼が周りを見渡した。
「あそこだ…」
真魚が嵐の居場所を見る。
「よほど…壱与の事が気になると見える…」
後鬼がそう言って笑っている。
「久しぶりに逢ったのだ…」
「仕方あるまい…」
真魚もその事は分かっている。
「一つの国を動かす事も出来る…霊力…」
前鬼は壱与の力をそう見ている。
三諸山の神と通じ、倭の大地を守護する巫女。
その壱与を守る。
偶然の出逢い。
それでも…
嵐の力は頼もしい。
「これも…必然か…」
後鬼が笑みを浮かべる。
「では、うちらはお山に…」
前鬼と後鬼はそう言って姿を消した。
「おや?」
「奴等は何処かに行きよったのか?」
嵐が帰った時には、前鬼と後鬼の姿はなかった。
「嵐、お主に頼みたい事がある…」
真魚が珍しくそう言う。
「頼まれても良いが…」
「飯と引き替えじゃぞ…」
真魚はその条件と引き替えに、嵐に頼み事を伝えた。
「任せておけ…」
嵐がそう言うと突風が吹いた。
嵐の霊気が大気を押しのけた。
神々しい波動が大地を駆け抜ける。
そこには金と銀の美しい獣。
本来の嵐の姿があった。
蜻蛉は山蝉に逢うために、目的の場所に向かった。
出雲の奥。
泊瀬(はつせ)にある。
泊瀬とは現在の初瀬である。
そこで夜に落ち合う事になっている。
「夜までは時間がある…」
「しかし、奴等は動くまい…」
川沿いの道を歩いている。
その時であった。
「あっ!」
突風が吹いた。
身体が一瞬宙に浮いた。
そのまま地面に転がった。
「なんだ!今のは!」
蜻蛉はすぐに立ち上がり、身構えた。
ただの風ではない。
強烈な波動…
それが、蜻蛉の脇を抜けて行った。
何かに襲われた…
蜻蛉はそう感じた。
もしそれが悪意のあるものであったとしたら…
無事ではなかったはずだ。
蜻蛉の中に僅かではあるが、恐怖が生まれた。
「いかん!」
蜻蛉はその恐怖を押さえ込んだ。
「危ない、危ない…」
恐怖は闇を生む。
それは自らをも貶める穴。
思考はその穴に通じる道。
闇の種を扱う者…
その仕組みは十分理解している。
「それにしても…」
今まで感じた事のない波動。
蜻蛉はその事実に戸惑っていた。
次回へ続く…
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