「何と…美しい…」
その姿を見つめる者がいた。
若き貴族の男。
その身なりからはそう窺える。
真っ直ぐに見つめる瞳。
その瞳の奥に隠された想い。
それは、この男しか知らない。
「あれが…壱与か…」
その名は聞いたことがあった。
三諸の山の神の力…
それを意のままにする巫女がいる…
今その力を、目の前で見たような気がした。
壱与の祈りはまだ続いている。
「なぜだろう…」
男はふと、ある感覚が気になった。
今まで感じた事はない。
この感覚の向こう側に何かがある。
理由はないが、ただそう思うだけだ。
そして…
その感覚が、錯覚でないことも分かる。
どこにも理由は存在しない。
男は自らの考えを笑うしかなかった。
「この俺も…」
衝動…
何かに動かされる。
いまここにいる…
いまここにある…
男はその意味を考えていた。
「さて…これをどうしたものか…」
広い庭、大きく美しい屋敷。
庶民が手に入れられるものではない。
庭に向かった濡れ縁。
柱に背を持たせ、男がつぶやいた。
懐の中の物を、着物の上から手で押さえた。
人には絶対見せられないもの…
そう言う物である。
「これが…本物…」
男の口元に笑みが浮かんでいる。
「どうするつもりだ…佐伯真魚…」
面白くて仕方がない。
男はそんな顔をしている。
「こんな物を私に掴ませ、借りを作ったつもりか…」
王の証…
それを持つにはまだ早い。
しかし、この男にその資格がないわけではない。
いずれ王になる男…
親王…
そう呼ばれる男であった。
「お主は…どこまで見ておるのだ…」
懐のそれを握りしめた。
佐伯真魚…
その男の考える先を見ようとした。
「お主には…」
「果てがない…」
男は考えるのを諦めた。
「全く、あの空のようだ…」
そう言って、笑みを浮かべた。
次回へ続く…
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