「阿瑠…」
昴は呆然と、阿瑠を見ていた。
二人の間で触れ合う波動。
目と波動が、二人を繋いでいた。
「お主ら、そういう仲だったのか?」
子犬の嵐が下から見上げていた。
「えっ…」
昴の頬が、赤く染まった。
嵐に言われるまで、気が付かなかった。
意識のない、刻が流れていた。
「これを、預かって来たわ…」
昴が懐から出し、阿瑠に渡した。
「これが…」
阿瑠が手にとって見ている。
「あなたが欲しがっていた物よ…」
昴が阿瑠に、その事実を告げた。
「ほう…」
前鬼が驚いている。
「面白い文様じゃな…中は菊の花かのう…」
その側で後鬼も見ていた。
「前鬼様と…後鬼様ですね…」
「佐伯様から、伺っております…」
「私が昴で、舞衣に、美鷺婆さんです」
昴が気を効かせ、皆を紹介した。
「なるほどな…」
後鬼が、笑みを浮かべている。
皆の波動から、全てを読み取っている。
「聞いておったより、美人ではないか?」
後鬼が、阿瑠の顔色を伺っている。
「この昴は…俺も初めて見る…」
女の着物を着た昴に、阿瑠が戸惑っている。
「そういうことなのか…」
後鬼が妙に納得している。
「済まぬが、それを儂に見せて貰えぬか?」
前鬼の頼みを、阿瑠は素直に聞き入れた。
王の証を、前鬼に渡した。
「これが…なるほど…」
前鬼が食い入るように見ている。
「儂も初めて見る文様じゃが…」
「少なくとも、唐あたりのものではないな…」
前鬼は納得した様子で、阿瑠に返した。
「そういうものが、ここにある…」
「それ自体が面白いのう…」
後鬼が謎の式盤の前で美鷺といる。
いつの間にか、美鷺婆と仲良くなっていた。
「鬼にも神にも逢ったぞ、私はもう死んでも良いな!」
「だめよ、美鷺婆!」
「まだ、仕事が残っているのよ!」
舞衣が美鷺を窘めている。
ちりぃぃん!
突然!
かすかな鈴の音。
「どうやら…仕掛けた罠にかかったようじゃな…」
後鬼の懐の鈴の音である。
「夜か…」
真魚がつぶやいた。
「今夜は大事な夜じゃ…」
「出来るなら…邪魔はない方が良い…」
美鷺が皆に言った。
「こちらの事は向こうは知らぬ…」
「そもそも…」
「うちらを相手に出来る者など、この世にはおるまい…」
後鬼が言った意味を、阿瑠は理解していた。
阿瑠達は、舞衣一人に完敗した。
女という姿に、油断はあったかも知れない。
だが、それだけでは無い。
そこに常識は存在しない。
あるのは理だけなのだ。
「まさかお主、寝返る事はないのう…」
嵐が、阿瑠を見て笑っている。
「これは俺の問題でもある…」
「俺が行って話を付ける!」
阿瑠が拳を握りしめ、そう言った。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-