「いったい…どこまで行くの?」
舞衣は、暗闇であっても構わず歩く。
まるで見えているかのように、森を進んで行く。
ほんのりと耀く舞衣の身体。
昴はそれを追いかけているだけだ。

「この奥に滝があったでしょ?」
舞衣が、歩きながら昴に言った。
「昔、よく遊んだ所?」
子供の頃、皆で川で遊んだ。
その記憶が昴に蘇る。
「滝の裏の洞窟、知ってる?」
舞衣が昴に聞いた。
「あの、入ってはいけない洞窟のこと?」
昴の村では言い伝えがあった。
『滝の洞窟に入れば、戻れなくなる…』
『この世とあの世の境目…』
そう伝えられて来た。
「そうよ…」
「まさか!あの洞窟…」
舞衣の言葉で昴が気付いた。
「どこかに…抜けられるの…」
この世と、あの世の境目…
その言葉の意味が、今の昴にはわかる。
「洞窟を通る時は、死ぬ覚悟…」
昴は、今がその時だと感じていた。
滝の前の岩陰に、一人の男が隠れていた。
明らかに何かを警戒している
年の頃は昴や舞衣と同じ。
乱れた髪を、後ろで束ねている。
細くつり上がった目。
その目で、岩陰から周りを伺っていた。
そこに、舞衣と昴が現れた。
男はそれに気付くと、岩陰から姿を見せた。
「舞衣、こっちだ…」
小さな声を出した。
虫の音の中に、その声が響く。
「 朔 、あなた待っていたの…」
「誰かに見つかったらどうするの?」
舞衣が呆れていた。
「朔、朔なの?生きていたの!」
「昴、昴なのか!」
朔という青年が、昴の姿を見つけた。
「そう言うことなのね…」
舞衣が、朔を見ている。
「なんの事だよ!」
朔の否定は意味をなさない。
舞衣にはすべてを見抜かれている。
「追手はいるのか?」
朔がうまく話をすり替えた。
二人を守る…
その決意だけは出来ているようだ
「一人…」
「正確には、一人と一匹かな…」
舞衣が振り返って見ている。
「もしかして…佐伯様と嵐?」
昴は、舞衣の言葉で気がついた。
「俺が相手してやる!」
朔が、二人の前に出ようとした。
「朔…あなたは相当の馬鹿ね…」
舞衣がまた呆れている。
「俺は!お前らを守ろうと…」
朔の決意は固いようだ。
「きっと…」
「百人でかかろうが、あの人には勝てない…」
昴がその答えを言った。
「それは、どういうことだよ!」
自尊心を傷つけられた、朔の鼻息が荒い。
「だって、神様が味方しているんだもの…」
昴が朔を見て言った。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-