空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その五 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話






未羽は、小川の近くで野兎を捌いた。
 
小刀だけで、見事に解体していった。
 
その間、空は近くの木に結ばれていた。
 

「これは、見事だ…」
 
直人が驚いて見ている。
 


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「奪った命は、大切に頂く…」


「決して無駄にはしない…」


未羽が野兎を捌きながら、その言葉を口にした。
 


それが、猟師にとって、一番大切なことかも知れない。
 


「鷹飼は獲物を捌かぬか…」
 

真魚が直人を見て言った。
 


「殺すだけか…」
 

「貴族にとっては、民の命もそのようなものか…」
 

未羽がつぶやいた。
 


「そんなことはない…」
 

直人が、未羽に反論した。
 


「お主らは、私達の生きる糧を奪うことしかしない…」
 

未羽は立っている直人を見上げた。


その目が直人に突き刺さる。
 


「お上の命令だ…仕方が無い…」
 

直人は、そう言うしかなかった。
 


「結局、そうやって逃げているのだな…」
 

未羽の言葉は、直人の心に突き刺さった。
 


「あの男に逆らうと、殺される…」
 

真魚は、直人の言いたいことを口にした。
 


「お上を…そのような…」
 

お上を人前で堂々とそう呼ぶ。


この男に、直人は驚いていた。
 


畏れなど全く感じていない。
 


「話が遠すぎて、見えぬ…」
 

未羽は、その話を切り捨てた。
 


「お主の鷹は、誰かのものか…」
 

「訳があるのは、そう言うことであろう…」


真魚が、直人に尋ねた。



「この前、将軍様の鷹が死んだのです…」



「ほう…奴も鷹狩りをするのか…」


将軍と言えば、坂上田村麻呂以外には考えられない。
 


「奴…と申されましたか…」
 

直人の額から汗が垂れている。
 


お上を、あの男と呼び、将軍を奴と呼ぶ。
 

直人には考えられない事が、起こっている。
 


「不思議ではないぞ…」


「私も、お主も知らぬ間に巻き込まれている…」
 

直人の困り果てた顔を見て、未羽がその事実を告げた。
 


何をどうしたという、訳でもない。
 

気がつけば、真魚の手の中にいる。
 


「この男は、そう言う男だ…」

 
未羽がさらりと言ってのけた。
 


「言いたいことは容赦ないのう…」
 

嵐が、真魚を見て笑っていた。
 

だが、否定はしない。

 
強ち、間違ってはいないからだ。 
 

木菟の空と、心を交わすことが出来る。
 

その力は、未羽の視界を広げている。
 


「秋までに、この呉羽を仕上げないと…」


次の鷹狩りが始めるまでに、呉羽を訓練しておかなければならない。
 

だが、今の直人の力では荷が重い。
 


そう言うことなのだ。
 


「今のお主ではな…」
 

未羽は、その未来を見ていた。

 

「奴の鷹になるのか、その呉羽は…」


嵐が鷹を見て、何かを考えていた。
 


「ところで…お主ら、刻は大丈夫なのか?」


嵐が何かを企んでいる。
 

人に対して、気を使う訳がない。
 


「食いぶちを減らすつもりか…」


真魚が、その企みに気がついた。
 


「今日は特別な日…」
 

未羽はそんな気がしていた。
 


「いつもはこんなに気前良く、ご馳走しないよ!」


未羽の言葉に皆が頷いた。
 

それは誰も否定しなかった。
 


「俺は、そろそろ帰らないと…」


名残惜しそうに直人が言った。
 


「明日は、来られるのか?」


未羽が、直人に言った。
 


「お、教えてもらえるのか?」


直人の声が震えている。



「言っておくが、命の保証は出来ぬぞ…」


未羽は、そう言う言い方をした。
 


出来るか出来ないか…
 

それは、直人の心次第だ。
 


「来る、絶対に!ここでいいのか!」
 

直人の、波動が広がっている。
 

その未来が、切り拓かれようとしていた。




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続く…

-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
    実在の人物・団体とは一切関係ありません-