未羽は、小川の近くで野兎を捌いた。
小刀だけで、見事に解体していった。
その間、空は近くの木に結ばれていた。
「これは、見事だ…」
直人が驚いて見ている。

「奪った命は、大切に頂く…」
「決して無駄にはしない…」
未羽が野兎を捌きながら、その言葉を口にした。
それが、猟師にとって、一番大切なことかも知れない。
「鷹飼は獲物を捌かぬか…」
真魚が直人を見て言った。
「殺すだけか…」
「貴族にとっては、民の命もそのようなものか…」
未羽がつぶやいた。
「そんなことはない…」
直人が、未羽に反論した。
「お主らは、私達の生きる糧を奪うことしかしない…」
未羽は立っている直人を見上げた。
その目が直人に突き刺さる。
「お上の命令だ…仕方が無い…」
直人は、そう言うしかなかった。
「結局、そうやって逃げているのだな…」
未羽の言葉は、直人の心に突き刺さった。
「あの男に逆らうと、殺される…」
真魚は、直人の言いたいことを口にした。
「お上を…そのような…」
お上を人前で堂々とそう呼ぶ。
この男に、直人は驚いていた。
畏れなど全く感じていない。
「話が遠すぎて、見えぬ…」
未羽は、その話を切り捨てた。
「お主の鷹は、誰かのものか…」
「訳があるのは、そう言うことであろう…」
真魚が、直人に尋ねた。
「この前、将軍様の鷹が死んだのです…」
「ほう…奴も鷹狩りをするのか…」
将軍と言えば、坂上田村麻呂以外には考えられない。
「奴…と申されましたか…」
直人の額から汗が垂れている。
お上を、あの男と呼び、将軍を奴と呼ぶ。
直人には考えられない事が、起こっている。
「不思議ではないぞ…」
「私も、お主も知らぬ間に巻き込まれている…」
直人の困り果てた顔を見て、未羽がその事実を告げた。
何をどうしたという、訳でもない。
気がつけば、真魚の手の中にいる。
「この男は、そう言う男だ…」
未羽がさらりと言ってのけた。
「言いたいことは容赦ないのう…」
嵐が、真魚を見て笑っていた。
だが、否定はしない。
強ち、間違ってはいないからだ。
木菟の空と、心を交わすことが出来る。
その力は、未羽の視界を広げている。
「秋までに、この呉羽を仕上げないと…」
次の鷹狩りが始めるまでに、呉羽を訓練しておかなければならない。
だが、今の直人の力では荷が重い。
そう言うことなのだ。
「今のお主ではな…」
未羽は、その未来を見ていた。
「奴の鷹になるのか、その呉羽は…」
嵐が鷹を見て、何かを考えていた。
「ところで…お主ら、刻は大丈夫なのか?」
嵐が何かを企んでいる。
人に対して、気を使う訳がない。
「食いぶちを減らすつもりか…」
真魚が、その企みに気がついた。
「今日は特別な日…」
未羽はそんな気がしていた。
「いつもはこんなに気前良く、ご馳走しないよ!」
未羽の言葉に皆が頷いた。
それは誰も否定しなかった。
「俺は、そろそろ帰らないと…」
名残惜しそうに直人が言った。
「明日は、来られるのか?」
未羽が、直人に言った。
「お、教えてもらえるのか?」
直人の声が震えている。
「言っておくが、命の保証は出来ぬぞ…」
未羽は、そう言う言い方をした。
出来るか出来ないか…
それは、直人の心次第だ。
「来る、絶対に!ここでいいのか!」
直人の、波動が広がっている。
その未来が、切り拓かれようとしていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-