朝日が、新しい一日を照らし始めていた。
弦は掃除を終えてから、本堂で瞑想をしていた。
「傷はどうしたのだ、治ったのか…」
その声で目を開けた。
住職の叔父が前に立っていた。
瞑想中に話しかけるのは良くない。
それを分かっていても、聞かねばならぬ事情があった。

「朝起きたら、治っていたよ…」
弦は頬を触って答えた。
「そうか…所で、弦…」
叔父は、何か聞きたい事があるようであった。
「何?」
「いや…何でも無い…」
叔父は、それ以上聞かなかった。
聞かなかったのでは無い。
聞けなかったのだ。
『弦が私より上であることは、有り得ない…』
自尊心が邪魔をした。
そして、神が言った弦が持つ宝玉。
それを羨み、自らと比べ、負の感情を生み出す。
叔父は死ぬまでこの想いに、付き合う事になる。
その自尊心を捨てない限り、自らの呪縛から解き放たれることはない。
それは、知らないうちに、自らでかけた呪いであった。
「ぼちぼち浜に行くか…」
弦は本堂を出た。
「あ~!気持ちいい~!!!」
弦は太陽の光を、身体にいっぱいに浴びた。
千潮が庭を箒で掃いていた。
後鬼が言った通り、清が様子を見に来た。
「!」
何も言わず、清の表情が変わった。
千潮の顔の傷を見たからであろう。
「か、顔の傷は治ったのか…」
「朝起きたら、治っていた…」
千潮が頬に触れた。
そして、笑みを浮かべた。
その笑顔が、美しかった。
清は千潮のその美しさに嫉妬していた。
「そ、そうか…それはよかったのう…」
詫びの言葉は一切無い。
「何か変わった夢でも、見なかったか?」
話の流れではない。
質問の内容が、明らかにおかしい。
「そういえば…神様の夢を見たわ…美しい女神様だった…」
千潮は空を見た。
そこに神がいるようなふりをした。
「そ、そうか…」
清はそれを聞くと、いそいそと姿を消した。
無いものをあると思い込み。
あるものを無いと思う。
人は自らで苦しむを生む。
だが、それは裏返せば、幸せになれると言う事でもある。
苦しむことができるならば、幸せにもなれる。
幸せになる力も、不幸になる力も…
人に、もともと備わっている。
「これで…大丈夫よね…」
千潮は胸を撫で下ろした。
千潮は幸せを見つけた。
「本当は、ここにいるのにね…」
千潮は、神からの贈り物を確かめた。
そして、空を見上げた。
「あれ…」
一筋の光が見えた。
「真魚と…嵐…」
千潮にはそれがわかる。
「ありがとう…」
千潮は、その光に感謝していた。
「もう行っちゃうのかな…」
千潮の後ろに、弦が立っていた。
「また会えるわよ…」
千潮がそう言った。
「なんだか淋しくなるな…」
弦が光を見ていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-