空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その二十 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話







「この馬鹿者が!」
 
清の平手が、千潮の頬を叩く。
 

「今日はお前のせいで、何もできんかったわ!」


「良いか!朝までにこの亀全部に水をくんでおけ!」
 



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清の暴力と罵声を、千潮は浴びた。
 

清はそう言い残し、何処かに消えた。
 

千潮の左の頬が、腫れている。
 

その頬に千潮が触れた。
 

「これだけなら…」
 

千潮の心は澄んでいた。
 


自らの感情を、そのまま暴力に変える清。



その暴力を、澄んだ心で受け入れる千潮。



「女も…ああなると恐ろしいのう…」


「男など、かわいいもんだ…」


どちらのことを言っているのだろう。


前鬼が、その様子を物陰から見ていた。





 

千潮が、桶を持って外に出た。
 

満天の星が、千潮を迎えてくれた。
 

「ああ…」


『あの光の渦に…溶け込みたい!』
 


千潮はそう思った。
 


身体が勝手に動いた。



意味も分からず、両手を広げ…


大きく息を吸い込んだ。
 
 

その時…
 

一つの星が近寄って来た。
 

「何…」


どんどん大きくなる。
 

気がつくと、光の渦の中に千潮はいた。
 


「これって…」


全てが光であった。
 

光の色がどんどん変わる。


 
「きれい…」


千潮は目を閉じて、全てを感じようとした。
 


「心地いい…」


遠い昔、この場所ににいたような気がする。 


身体がばらばらになって、溶け合っている。
 


『一緒にいるよ…』
 

どこからか、声がした。
 


言葉では無い。
 


だが、聞いた事がある。
 

懐かしい声…



千潮は、その両手で全てを抱きしめようとした。
 


限りなく…尊く…儚い。
 

そして…愛おしい。
 


まだ見ぬ我が子を抱きしめるように、全てを抱いた。
 


泣いていた。
 


だが、千潮はその涙に気付いてはいない。
 

感動の渦の中で、必死に耐えていた。
 


歯を食いしばって、埋もれていた。
 


かけがえのないものと、一つになる。
 


それがうれしかった。
 


『ずっと、一緒にいるよ…』


声が聞こえた。
 


その時、千潮は自分の涙に気がついた。

 

手の平の上で、涙の形が変わる。
 

光の粒が集まってくる。
 


どんどん大きくなって、七色に輝いた。



七色の光の珠。
 

千潮はそれを胸に抱きしめた。
 


切なく、儚く、尊い…


 
神の慈悲が、そこに存在していた。
 


千潮は、それを抱きしめて泣いた。


 
ただ、泣き続けた。
 

悲しいからでは無い。
 


神の心を知ったからだ。
 


どれだけ時間が過ぎたのかも、わからなった。



気がついた時には、庭に座り込んでいた。
 

「あ…」


千潮が握りしめていた手を、開いた。
 

そこには、何もなかった。
 

千潮が廻りを見渡している。
 


「捜し物か?」


前鬼がそう言って、自らの胸を指さした。
 


「えっ!」
 

千潮が自分の胸元を見た。
 

涙で着物が濡れていた。
 


「良い物を…頂いたな…」
 

前鬼が千潮に言った。

 

千潮は、自らの涙の痕に、手を触れた。


 
「あっ!」
 

千潮が笑った。
 

その奥に、それはあった。
 


星の光の中で…


千潮は、美しい心の波動を放っていた。
 


「なんと…」


その波動の響に、心を奪われた。



「美しい…」


前鬼は、千潮のその姿に見とれていた。
 


「そんなに鼻の下を伸ばして…」


「どこぞに、美しいおなごでもおるのかのう…」


そう言って、後鬼が現れた。
 


「うちらも…ぼちぼち仕事をするか…」


千潮に見とれている前鬼の頬を、後鬼がつねった。




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続く…

-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
    実在の人物・団体とは一切関係ありません-