闇の中に、波の音がしていた。
「後鬼が言ったのは、この辺りだったな…」
嵐の背中の上で、真魚は言った。
真魚達は島に渡り、鰐に襲われた男の墓に向かった。
空から島を周り、様子をうかがった。
島の廻りに、松明の明かりが見えていた。

「どうやら、間違いではないようだな…」
これだけ必死になって、捜す理由がある。
真魚はそう考えていた。
「だが、どうして奴らにそれを返そうとする…」
嵐が、勾玉について不思議に思っていることだ。
「このままでは…見つかるまでは止めまい…」
「聡真や父が困るではないか…」
真魚はそう言った。
「本当に…それだけか?」
嵐は真魚の言葉が腑に落ちない。
「まぁ、どうでも良いことだ…」
「俺が気になっているのは、あの鰐だけだ…」
嵐はそう言って笑った。
「あれか…」
岩場の上に何かが見える。
石が積み上げられていた。
「この辺りで下りるか…」
真魚と嵐は地上に降り立った。
すると、真魚はすぐに側の砂浜で、流木を集め始めた。
「何をする気だ…?」
嵐は、分かっていながら、そう聞いた。
「少し寒くないか?」
真魚はそう言って、火を起こした。
寺の周りに馨しい香りが漂っている。
後鬼が屋根の上で香を焚いていた。
「いつもながら、この臭いはどうにかならんか…」
鼻に詰めた気付け薬。
その強烈な臭いに、前鬼が悲鳴を上げていた。
「それがないと眠気に勝てぬ事は、体験済みじゃ…」
「それは、わかっておるが…」
「それを調合するのに、どれだけ苦労したと思っておるのだ!」
前鬼の泣き言を、後鬼は拒否した。
この香りのおかげで寺の周辺は、静まりかえっている。
生命の全てが眠りについた。
そう言っても過言ではない。
今、起きているのは、前鬼と後鬼だけであった。
「爺さんにはとりあえず、千潮を運んでもらおうか…」
「うちは、弦の様子を見てくる…」
後鬼が屋根の上から跳んだ。
庭で千潮が眠っている。
桶の中の水に、星が映っていた。
前鬼が千潮を抱きあげた。
そして、弦のいる本堂に向かった。
本堂では、弦が床に倒れ込むように眠っていた。
後鬼が、弦の鼻に気付け薬を詰めた。
がほっ!げほっ!
弦がその臭いで目覚めた。
「なんだ!これは!」
鼻をかきむしった。
「しばらくの我慢じゃ…」
後鬼のやさしくげな言葉とは裏腹に、その臭いは強烈であった。
「さてと…」
前鬼が千潮を連れてきた。
後鬼が千潮にも同じように鼻に薬を詰めた。
げほっ!げほっ!
千潮が咳をした。
「何なの!この臭い…」
千潮は皆の姿を見て、眉を顰めた。
「美人が台無しじゃな…」
前鬼が笑っていた。
「さすがに、、自分で詰めるのは、勇気がいるであろう…」
「だが、一度詰めてしまえば、あとは慣れるだけだ…」
後鬼はそう言って笑った。
そのために、二人を眠りにつかせた。
「たしかに…そうかもしれないけど…」
弦が鼻を触りながら答えた。
弦にはその心が、通じていなかった。
「では、行くぞ!」
後鬼が言った。
「行くぞって、どこへ?」
弦が言った。
「住職と清の所じゃ!」
前鬼が答えた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-