「では、次だ…」
嵐がそう言った時には海の上であった。
「これが…海…」
木葉も顔を上げていた。
「潮の香りがする…」
雫も海を見るのは初めてであった。
「こんなに広いのだな、海も…大地も…」
陽炎はその全てを感じ取っていた。
「ここだ…」
嵐が止まった。
小さな家が所々にある。
茅や藁の屋根。
ここに貧富の差は生まれない。

「ここは…」
雫は驚いていた。
「蝦夷の村だ…」
「蝦夷って、あの…」
木葉が知っている蝦夷は、真実では無い。
「そう思うのか?」
嵐が木葉に聞いた。
木葉は溢れる波動を感じている。
その心に受け入れていた。
「こっちの方がいい…」
木葉はそう答えた。
「私も…」
雫がそう感じた。
生命の耀きがそこにはあった。
「何が…違うの…」
雫は迷っていた。
噂に聞く都の話。
だが、雫の見た都は、想像とはかけ離れたものであった。
「次だ…」
「まだあるの?きゃっ」
雫が言い終わらないうちに、嵐が飛んだ。
「今度は上?」
雫が嵐にしがみつく。
木葉は必死に、その雫にしがみついていた。
五度ほど呼吸をしたであろうか。
「この辺りか…」
嵐が止まった。
「これは…」
陽炎は、その光景に口を開いたままだ。
「これは…大地なの…」
「大地って…丸いの…」
雫は頭の中がおかしくなってきた。
「目を閉じて、感じてみろ…」
嵐が言った。
三人は目を閉じた。
「あっ…」
光の渦が見えた。
「都も…蝦夷も…この中にあるの…」
全てがその光の中にある。
足すことも、引くことも出来ない。
ただあるだけだ。
存在することが事実で有り、全てであった。
「どういうことなの…」
雫が戸惑っている。
「それは、自らの心に問うて見よ…」
「自らの光で…」
嵐が言った。
雫は心に意識を向けた。
雫の七つの輪が発動する。
ゆっくりとその輪が回転を始めた。
だが、雫はその事に気づいていない。
無意識にしている。
「陽炎の子か…」
嵐は笑って見ていた。
心のずっと、ずっと奥。
行きたかった。
行けるところまで行こうとした。
「あっ…」
呼ばれているような気がした。
「そうか!」
雫は意識を集めた。
光が生まれた。
七つの輪が勢いよく回り出した。
光が大きくなる。
七つの輪がそれを生み出している。
自らの生命が膨らんで行く。
雫はそう感じていた。
どんどん大きくなる光。
雫の身体が揺れている。
そして…
その光が弾けた…
「ああ…」
目の前に広がる…光の世界。
雫は、自らの力でその扉を開いた。
そして、気がついた。
「同じ…なの…」
大いなる慈悲の光。
目の前にある光の渦。
「同じ…生命…」
雫は涙を止められなかった。
「ありがとう、嵐…」
「お主には何と礼を言っていいのか…」
陽炎は二人の娘を見ていた。
木葉とは血のつながりは無い。
だが、陽炎にとって、そんな事はどうでも良かった。
木葉がいなければ、今の陽炎は無い。
それは、木葉にとっても同じ事だ。
そして、陽向であった雫を、救ってもらった。
「雫を助けたのは兄者だ、俺には関係ない…」
「だが、今もこうして導いてくれる…」
陽炎は嵐に感謝をしていた。
「あれこれ説明するのは苦手でな、見た方が早い…」
体験は自らを変える。
そして、行動は未来を変える。
嵐に深い意図はない。
だが、嵐がここに来た理由はそういうことだ。
「兄者が救った命の耀き…俺にとっても同じだ…」
嵐にとっても、雫は娘のようなものだ。
「雫に笑顔が戻った」
「そう言って、露が喜んでいたぞ…」
陽炎は、嵐にその事を伝えた。
「命は輝かねばならぬ…」
「その耀きが自らを救い、人を救う…」
陽炎がそう言った。
「真魚がよく言っている…」
嵐が、その言葉を聞いて笑った。
「私も…救われた…その光に…」
陽炎はそう言って微笑んだ。
「たった一つの光で、世界が変わるのだな…」
雫が生んだ笑顔の光。
それが、露の光を生み、辰の光を生んだ。
そして、陽炎を救い、また誰かを救う。
「あの光はそういうものか…」
星を覆う生命の光。
その波動を陽炎は感じていた。
「雫、木葉、良かったな…」
「みんなで来られて…」
陽炎が二人を抱きしめた。
愛しき娘の光を、抱きしめていた。
「おねえちゃんって、呼んでもいい?」
木葉は雫を抱きしめていた。
「うん」
雫は、木葉の思いを受け取った。

沈黙の微笑 完