月が美しい夜だ。
人も動物も、月の呪縛からは離れられない。
満月。
その光は人の心を惑わし、惹きつける。
理由は分からない。
古よりそこには神がいるとされている。
社の中で埜枝は考え事をしていた。
その時であった。
「なんだ、これは!」

埜枝の側を強い波動が抜けて行った。
それを感じる事が出来る者。
村の中でも数人のはずだ。
だが、それよりも問題があった。
誰がそれを放ったかと言うことだ。
埜枝もこれほどのものは感じた事はなかった。
「これを…放つ者がいる…」
それは、埜枝にとっては恐怖そのものだ。
明らかに自分の力を超えている。
自分の立場が危うくなる。
「誰だ…この村に…」
埜枝は考えた。
「まさか!」
「生け贄が消えたことと…」
その関係性に埜枝は興味を持った。
社の屋根に立った影が放つ波動。
通り過ぎた風の波動。
どれとも違う。
「だが、無関係ではあるまい…」
埜枝はそう考えた。
今までこういうことはなかったのだ。
無かったことが、今日、全て起きている。
そして、埜枝がある事実に気がついた。
ぐるるるぅぅぅ
獣が唸るような音がする。
ちゃり
ちゃり
それが動く度に金属音がしている。
黒い影。
その黒い影が興奮している。
「お前も感じたのかい…」
埜枝がその影に声をかけた。
ぐおおおおお~!
突然、黒い影が叫んだ。
「おい!どうしたんだい!」
その声に埜枝が腰を抜かした。
手をついて前に行こうとするが動けない。
ぐおおおおお~!
叫び声を上げ、黒い影が暴れ出した。
どおおぉぉん
どおおぉぉん
どおおぉぉん
三度、何かがぶつかる大きな音がした。
「おい!どうしたのだ!」
禿頭で髭を生やした老人が慌てている。
その音に気がつき、急いで来たようだ。
「あんた、逃げたんだよ!」
埜枝が泣きながら叫んでいる。
黒い影は鍵のかかった扉を体当たりで壊し、外に消えたのだ。
「あいつがか!」
老人が叫んだ。
埜枝の足下には、引きちぎられた鎖があった。
「それを…ちぎって逃げたのか…」
恐ろしい。
『人など…とても敵わない…』
この時、この老人はその者の真の力を知った。
「恐ろしい事が…起きる…」
埜枝が震えている。
「生け贄を食ろうておれば、こんな事には…」
埜枝はその責任を生け贄に押しつけた。
「とにかく、捜さねばえらいことになる…」
髭の老人がそう言って動いた。
埜枝の足下の鎖から血が滴り、落ちている。。
鎖と床についた血の痕。
「これほどまでして…」
あの波動に反応したことは間違いない。
埜枝にはそのものの行き先が、分かるような気がした。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-