三笠山の頂上であった。
月明かりが古い都を照らしている。
真魚はその月を見ていた。

「美しい月だ…」
真魚がつぶやいた。
「哀しい月でもありますな…」
その横で前鬼がつぶやいた。
仲成の屋敷で一仕事終えた。
あとは嵐の仕事だ。
「哀しいから、美しいのかも知れませぬな…」
紗那と東子の最後の夜。
後鬼がその儚さをそう例えた。
「嵐も変わりましたなぁ」
前鬼が笑っている。
「そうだ!」
後鬼は笈の中から水瓶と器を取り出した。
「媼さん、ここで宴会でもするつもりか?」
「うちの新作じゃ!」
後鬼は自慢げに水瓶の中身を器に注いだ。
「なんだ、酒ではないのか?」
酒の臭いがしない。
前鬼が残念そうな顔をしている。
「あんたは何も分かっておらん!」
後鬼は前鬼をそう言って窘めた。
「ほれ、一口飲んでみなされ」
そう言って後鬼が器の飲み物を前鬼に手渡す。
「真魚殿もどうぞ…」
真魚の前には丁寧に器を置いた。
「お、お~」
前鬼が叫び声を上げた。
「酒など及びもせぬであろうが…?」
その言葉の中に、後鬼の自信がみなぎっている。
「生憎、肴はこれしか有りませぬが…」
そう言って一つの饅頭を取り出した。
「一つだけか?」
前鬼がまた残念そうである。
「これはこうして…」
一つしかない饅頭を後鬼は三つに分けた。
それを紙で包んで二人に渡した。
「おっ、この饅頭もうまい!」
前鬼が感動している。
「これも自信作じゃ…」
「美味しい飲み物と饅頭、そして美しい月…」
全てが味に花を添える。
後鬼がそう言っている。
「奪い合うより、分け合うことだ…」
「そうすることで味はまた深まる…」
真魚が言った。
「確かにそうですな…」
前鬼が反省している。
「儂の腕を疑うからじゃ」
後鬼が笑っている。
「同じ月でも、見るものによって違う…」
「美しさを決めるのは目ではない、その心だ…」
真魚はそう言って飲み物を口に含んだ。
「分け合って食べる方が美味しい…」
「それは想いも同じか…」
後鬼がそうつぶやいた。
紗那と東子のことを見ている。
「嵐が後で悔しがるぞ…」
真魚が器の飲み物を飲んでつぶやいた。
「奴は別の意味でお腹いっぱいかも知れぬぞ!」
前鬼が嵐の波動を追っている。
「嵐の心、二人にどう届くか…」
後鬼がその心を感じている。
空に輝く一筋の光。
その全てを月の光が優しく包み込んでいた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-