後鬼は拍子抜けをしていた。
「あらら…」
あまりにも早い決着。
そして、その逃げ足を笑うしかなかった。
それは隠れて見ていた皆が思ったことであろう。
「これからだと言うのにのう…」
まだまだ後鬼は驚かす気でいたのだ。

「紗那を傷つけた分くらいは驚かしてやらんとなぁ…」
後鬼は残念な様子だ。
「あれだけ驚けば言うことはあるまい」
効果はある。
前鬼が笑ってそう言っている。
「迫真の演技だったなぁ」
「鬼気迫るというか…なんというか…」
嵐がそう言って後鬼をからかっている。
「鬼に向かって鬼だと…」
「そう言いたいのか…?」
後鬼は嵐のその言葉に恐ろしい笑みを返す。
「本当の事だから仕方あるまい…」
前鬼がその中に割って入る。
「後鬼、少しもの足りぬのではないか?」
真魚がそう言って笑みを浮かべている。
「今のままでは紗那が鬼になった事になる…」
前鬼がその事実を理解している。
「そうなると一つ、困った事がある…」
真魚が言った。
「東子か…」
紗那が気がついた。
「兄が愛しき者に手をかけるなど、不憫な話だからな…」
嵐が東子の心を哀れんでいる。
しかも、その者が恨みで鬼になったのだ。
別の未来ではそう言うことになっている。
「何か俺に出来る事はないのか!」
紗那が東子を心配している。
「俺に一つ考えがある…」
真魚がそう言って笑った。
息も絶え絶えになりながら、牛車の所まできた。
「いかがなされたので!」
牛車の番をしていた付き人が三人の姿を見て驚いている。
その言葉遣いからその男は若いことが窺える。
「は、早く仲成様を…」
息を切らせながら仲成を牛車の中に押し込んだ。
「急げ!」
「何かあったのですか?」
「とにかく急げ!それからでも話は出来る…」
髭を生やした男が急かした。
「分かりました!」
若い男が手綱を持って牛車を走らせた。
その横を駆け足で三人がついて行く。
「鬼だ、鬼が出たのだ…」
「お、鬼ですと!」
若い男が驚いている。
「これは祟りだ…」
「祟り…」
どうやら若い男は事の次第を知らないようだ。
仲成は牛車の中で刀の柄を握って震えていた。
本当の鬼に出会うのはこれが初めてだった。
辺りの様子を伺いながら三人は牛車を走らせた。
灯りがそれぞれの手にある。
合わせて三つ。
その灯りが牛車を囲んでいる。
「ここまで来れば…安心か…」
見慣れた建物が見えている。
はぁ、はぁ…
息が切れている。
森の中から走り通した。
疲れもあって速度を落とした。
その時であった。
灯りが三人の手から一度に落ちた。
「あ!」
落ちたと思った灯りがない。
かすかに月明かりがそれを伝えている。
ばさっ!
空を大きな黒い影が飛んだ。
「ひぃぃぃっ」
鬼を見た二人の男は腰を抜かした。
若い男だけが平然と立っていた。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-