夕焼けが美しい。
華音は不思議な感覚であった。
飛んでいる。
嵐に乗って飛んでいる。

「嵐、あなたって本当にすごい!」
華音は感動している。
「俺は神だぞ!」
嵐のその言葉に真魚が笑っている。
島が見えた。
美しい。
生命が輝いている。
華音はそれを感じている。
華音は一度島に帰ることにした。
母との思い出の品を取りに来た。
一つだけでいい。
それはもう決めてある。
それともう一つ。
もう一度、嵐に乗りたかった。
それが願いであった。
嵐が高度を下げた。
「きゃっ」
華音は楽しくてたまらない。
海ぎりぎりまで下降する。
水面近くをものすごい速さで飛んだ。
水しぶきが舞い上がる。
着物が濡れた。
「調子に乗りすぎだ」
真魚が窘める。
「華音は楽しんでいるではないか」
それは事実だ。
一気に島の上まで飛んだ。
「島が豆粒のように小さくなった」
「華音は嵐にしがみついていた」
「ありがとう、嵐」
華音は嵐にそう言った。
その声が揺れている。
「俺で涙を拭くな!」
嵐が笑っている。
「もう会えないの…」
華音が淋しそうに言う。
「俺の毛を持っていろ」
「嵐の毛を…」
華音は嵐の毛を抜いた。
「何かあればそれに心を繋げ」
嵐がそう言った。
「心を繋ぐ…」
「飛んできてやる」
嵐はそう言った。
「わかった!」
華音はうれしかった。
「俺たちは華音の味方だ」
真魚が華音の頭を撫でる。
「何があってもだ」
空の上から沈みゆく夕日を見ていた。
「ありがとう」
「人とは違う姿だけど…」
「私、生まれてきてよかった」
華音がそう言った。
「そうか…」
真魚がその言葉を聞いている。
「真魚と嵐に会えた」
「きっと、母が繋いでくれたのね…」
「母の笛の音が…」
そう言うと華音は手を組んだ。
そして心を繋いだ。
組んだ手から美しい音色が始まる。
神の笛を奏でている。
夕焼けがその旋律を彩る。
その波動が広がっていく。
その旋律は華音の想い。
そして、それは母の心。
「慈悲深い神の旋律だ」
真魚がそう言った。
「何の事だ?」
嵐が真魚に聞く。
「初めからそのつもりだったのだ」
「大国主の神は…」
真魚は目を瞑って華音の笛を聞いている。
「満更、嘘でもなさそうだな」
嵐がそう言った。
「何の事だ?」
珍しく真魚が聞いた。
「その昔、兎を助けたと言う話だ」
嵐がそう言って笑っている。
「かも知れぬな…」
真魚がそう言って笑みを浮かべた。
真魚は神に感謝していた。
華音が奏でる笛はしばらく続いた。
「そろそろ行かぬとな…」
別れが惜しいのは嵐も同じだ。
「父が心配するぞ!」
「うん!」
華音が笑顔でそう答えた。
その声の波動は未来へと続いていた。

風の音色 - 完 -