私はこの夏というか春に
近郊の牧場で
子羊への授乳作業の
していたのですが。
このたび用事があって
その牧場の近くに行きましたら
・・・牧場ですから周囲を
牧草地に囲まれている
わけじゃないですか、
その一角に妙に
見覚えのある羊たちが・・・
何に驚いたって
私の脳は瞬間的に
「この子達を知っている」って
判断を下したんですよ。
私はこの年まで自分に
羊を見分ける才能が
あるとは知りませんでしたよ。
この羊たちがいる牧草地には
他の羊たちも放されていて、
その周辺の牧草地にも
それこそ何百頭という単位で
羊がたむろしていたわけですが、
私にとってその子達は『単なる羊』、
一方この子たちは特別な羊。
・・・たぶん・・・
あれ、私、この子たちを
知っているよね、この子たちは
私がミルクを与えていた子たちだよね?
他人、もとい他羊の空似という
こともあり得るけど・・・
この妙に私という人間を
恐れない感じ・・・
ただ恐れてはいないんですけど
こちらに好意を示しているという
感じでもない、うーんこれは
羊飼い氏には
「おはようおはよう、
本日のご機嫌はいかがかな」と
授乳作業の日々にしていたように
羊たちに声をかけると
その声を聞いた何頭かがまず
「・・・あれ?この人、
知っている人じゃない?」と
こちらを凝視し始め、
それに気づいた他の羊たちも
じっとこちらを見て
「・・・朝にミルクを
くれていたニンゲン・・・?」
「でも色が違う・・・
(注:服の話、当時は毎日
作業着代わりに
黒いフリースを着ていた)」
「犬も一緒じゃないよ・・・」
仕方ないな、と
私はもう一度大きな声で
「おはよう、みんな元気?」
これで羊たちは一斉に
記憶を取り戻したというか
「あー!給食のおばさんだ!」と
確信したというかで
わっと近寄って来てくれました。
そして親し気に
「ねえ、ミルクくれるなら
僕たちまだ飲めるよ」
「ミルクは別腹だよ」と
口々に催促、でもそこに以前の
「ミルクをくれなきゃ
お腹が減って死んじゃうよ!」的
悲壮感はなく・・・うん、
君たち皆見事に大きくなって
ミルクなしでも草と飼料で
お腹がいっぱいになる体に
立派に成長したものねえ!
子羊たちは元気そうでした。
幸せな夏を過ごせているようで
何よりなのでございます。
この子たちは9月中、
つまり今月中に出荷の予定
その事実にドキッとしない
というのは嘘になるのですが
わが授乳作業仲間の毒舌夫人曰く
「あの子たちは本来なら
生まれてすぐに死んでいた羊、
そんな子たちを蘇生させ
ミルクと愛情を与えて
草原を駆け回る素晴らしい日々を
経験させてあげられたことは
悪しき行いではないと思うのよ」
生命を繋ぎ、そして同時に
奪いながら私は生きているのです
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