「止める勇気」を壊す人が、一番危険だ
今日は、本当に疲れた。
肉体的な疲れではない。
精神的に、どっと疲れた。
おそらく、一人の部下が、このリグ(海上石油掘削設備)を去ることになる。
そんな結論に至るまで、私は何度も考えた。
「もしかしたら、私の説明が悪かったのではないか。」
「私の言い方で、Permit to Work(PTW:作業許可証)が不要だと誤解したのではないか。」
私は普段から、一つの方向だけで物事を判断しない。
どんな時でも、まず自分が間違っている可能性を考える。
だから今回も、関係者一人ひとりに話を聞いた。
夜勤のスーパーバイザーにも確認した。
朝のミーティングで、私は何を説明していたのか。
その場にいた人は、どう理解していたのか。
すると返ってきた答えは、全員同じだった。
「誤解する余地はありませんでした。」
「Permitを取り、呼吸器を準備し、ガス測定を行い、作業する手順を細かく説明していました。」
さらに夜勤スーパーバイザーは、私がミーティングを終えて席を外したあと、本人にもう一度念を押していたという。
「ショートカットするなよ。Permitをちゃんと書くんだぞ。」
そこまで確認して、私は一つの可能性を消した。
私の説明不足ではなかった。
では、なぜ彼はPermitを取らずに作業したのか。
本人の答えはこうだった。
「Permitが必要なのは分かっていました。でも5分で終わる仕事でした。Permitを書くと30〜40分かかるので、時間がもったいないと思いました。」
ここで少し説明しておきたい。
Permit to Workとは、単なる紙ではない。
危険な作業を始める前に、危険要因、安全対策、責任者、作業方法などを確認し、「この条件なら安全に作業できる」と全員で確認するための仕組みである。
今回の作業は、閉鎖空間(Confined Space)への立ち入りだった。
数日前まで、そのタンクではH₂S(硫化水素)が検知されていた。
硫化水素は、高濃度では数回吸い込むだけで意識を失い、命を落とす危険がある猛毒ガスだ。
だから現場では、一つの安全対策だけに頼らない。
ガス測定。
換気。
PTW。
JSA(作業安全分析)。
リスクアセスメント。
スタンバイマン。
救助計画。
呼吸保護具。
これらを何重にも重ね、人間は必ずミスをするという前提で命を守っている。
だから、安全とは「結果的に事故が起きなかった」という話ではない。
事故が起きない仕組みを守ることなのである。
しかし、私が最後まで理解できなかったのは、そこではなかった。
彼は作業を終えたあと、私に電話をかけてきた。
「ドッキングプラグを開けました。」
その一言だった。
私はその瞬間、正直に言えば戸惑った。
なぜ、その報告を平然とできるのだろう。
Permitを取らなかったことを理解していた。
部下からも止められていた。
それでも作業を行い、そのまま何事もなかったように報告する。
その思考だけは、最後まで理解できなかった。
もちろん、本当に私を軽く見ていたのかどうかは分からない。
だから決めつけるつもりもない。
ただ、その行動は、私にはどうしても理解できなかった。
そして、今回私が最も問題だと考えたのは、Permitを書かなかったことだけではない。
部下が「Permitが必要です」と止めたにもかかわらず、その声を無視して作業を続けたことだ。
石油・ガス業界には、**Stop Work Authority(危険だと思えば、相手が上司でも作業を止める権利)**という文化がある。
これは制度ではなく、文化だ。
もし、部下が勇気を出して止めても、
「うるさい。」
「いいからやれ。」
そんなことが繰り返されれば、誰も止めなくなる。
「言っても無駄だ。」
そう思った瞬間に、安全文化は崩れ始める。
だから私は、Stop Work Authorityをとても大切にしている。
私自身もミーティングでは、いつもこう言っている。
「もし俺が間違ったことをしたら、遠慮なく止めてくれ。」
「止められたことでは怒らない。」
「でも、危険だと知っていながら止めずに、後から『実は分かっていました』と言われる方が、ずっと問題だ。」
クルーは、私にとって家族のような存在だ。
だからこそ、一人ひとりを守りたいと思っている。
私は、人を好き嫌いで評価しない。
お土産をもらったから評価が上がることもない。
逆に、気が合わないから評価が下がることもない。
見るのは仕事だけだ。
仕事への姿勢。
安全に対する考え方。
そして、この人に仲間の命を任せられるか。
それだけである。
私は彼を辞めさせたかったわけではない。
できることなら、こんな報告はしたくなかった。
しかし、もし「かわいそうだから」という感情を優先して報告をためらい、その結果、彼が将来また同じ判断をして誰かの命を奪ったとしたら。
その責任は彼だけのものではない。
報告すべきことを報告しなかった私にもある。
管理者とは、人に好かれる仕事ではない。
時には、誰かの人生を左右する判断をしなければならない。
その判断は、決して気持ちのいいものではない。
それでも私が最後まで守りたいのは、一人のキャリアではない。
今日、このリグで働いている全員が、明日も無事に家族のもとへ帰ること。
そのために判断することが、私に与えられた責任なのだ。
と、偉そうに書いて見ましたが、つかれた。。。
しかも 朝一でクルーがドローンを発見して 盛大にパニクってくれたのも 疲れた。。。