さて問題の……『疫病神H』曰く『上質なソーセージロール』(参照;ソノ38)である『ソーセージ・プラッツ』当日。
私はまた少し早めに出勤し冷蔵庫から「私が作った生地」と「ゆるゆるのヘロヘロ」を作業台に取り出すと、「私が作った生地」を大きく伸ばし、「ゆるゆるのヘロヘロ」を真ん中に置いて包み、三つ折りを数回繰り返してまた取り合えず冷蔵庫に入れた。
住人全員に公平に、尚且つ少しでもマトモなモノを提供したかったからである。
それこそ『疫病神H』のように「私の責任じゃない!」という顔をして全く違う見栄えの品を同時に出すことも出来たとは思うが、住人達に罪はない。
何より、『究極のメニュー初日』と一緒(参照;ソノ44)で、その日『疫病神H』は「何故か」「また」(少なくとも)午前中は出勤していなかったのだ。
毎月出される全従業員の「シフト表」は最初『M妻』が作成していたが、『疫病神H』が来てからは当然のように彼女の仕事となり……それでも私の日~木勤務という形は変わらなかったのだけど、彼女は最初、自分にだけは
「月曜から金曜の朝の9時から午後5時まで」
…という、「市役所の事務職ですか?」と言いたくなるようなシフトを組んでいた。
(それで当時一番割を食っていたのは一人暮らし&過去の弱みがある『T』だった)
しかし、人の出入りは週末の方が(家族が来たりするので)多かったりするし、結局『臨時』や『緊急』は平日よりも週末に多く起こる。
そうした事が起こる度に『疫病神H』が当然のように呼び出されていた。
まして、最初の頃は彼女が採用した従業員が唐突にバンバン辞めたので当然『穴埋め』が必要となったが、それも当然の結果として彼女がやっていた。
「事務職」も当然任務のうちだが、それだって「事務室に籠っていればいい」なんて状況は全くない。
そうした現実から『疫病神H』も少しは学んだのか、
「とにかく休みやすい日に休んでおこう」
という態度で交代で週末出勤もするようになったのだが、メニュー開始当初の彼女自身のシフトは、私にはどう考えても(当人も無意識であろうが)『逃げ』としか考えられなかった。
私はこれまた前日から解冷してあった「肉4割」の生ソーセージの中身を絞り出しながら考えていた。
「これなら、単なる『大きなソーセージロール(参考レシピ&写真)』だよなあ……」
何処が『上質』なんだ?と思いつつ、とにかく「みんな」=『疫病神H』が望む形とサイズの『ソーセージ・プラッツ』が人数分焼き上がった。
しかし、私はまた別のことを心配していた。
殆どの『ソーセージ・ロール』は「一口サイズ」で前菜やオヤツ扱い、手づかみで食べるモノなのでまともな食事に出て来ることはない。
「菓子パンサイズ」と言える少し大きめのモノもあるが、御存知のように「パイ生地」のものをナイフとフォークで食べるのは技術が……というか「コツ」と、けっこうな「力」がいる。
まして「つるつるの皿」の上では!
「なんでも手づかみ&丸かじり(ついでに歩き喰い)」が当然の人間には想像も出来ないだろうが、例え元気であろうと、相手は握力も何も確実に弱っている高齢者である。
いっそミートローフくらいに大きく作ってから『切り身』にして出せばマシだったろうが、いかんせん、中身に火が通るまで焼く時間が無い。
(前日に成型して朝から「焼くだけ」にしていたら間に合っただろうが、シチューも仕込ませないくらい「フレッシュ命!」の『疫病神H』が許可するワケがなかった)
台所であらかじめ小さく切ってから……とも考えたが、そうなるとわざわざ「編んだ」意味が無くなるし、それこそ『疫病神H』が許さなかったろう。
(実際、その次の回には『疫病神H』が居たのでまた切らずに出したのだが、文句や変更は全く指示されなかった)
しかし、『これこそがみんなが望んでいる料理』、そこはとにかく
「『疫病神H』がそう言ったんだから!」
…と無理矢理開き直り、そのまま出した。
住人達の昼食時間には必ずケアラーが二人居るのだが、一人は前半「絶対介護」が必要で寝たきりの住人の給仕に付きっ切り、あとの一人が10人ほどの食事補助をしていた。
と言っても住人達の殆どはゆっくりでも一人で食べることが出来たし、特に「私のメニュー」の時は料理の殆どを一口サイズ以下に仕上げていたし、固い肉でも圧力鍋で徹して煮ていたのもあり、ナイフ・フォークの他にスプーンが用意されるくらいで大抵の住人は自力で食べていた。
ケアラーも最初に飲み物を配るくらいで、同じテーブルに座り、話し相手をしながら自分のオヤツや弁当を広げる事が出来ていた。
しかし、『予想通り』その日は昼食時も「大忙し」となっていた。
大抵の人達が「切れない」と言って介助を頼んだ。
その為、その日のケアラーは一人ずつ、全ての住人を順番に回る羽目になり、無理に切ろうとした人達の皿からは「ブツ」が飛び出し、危うく床に落ちる所だった……とは後から聞いた話だったのだが、当然だろう。
そう、ソレは全く『高齢者に(そして介助者にも)優しくない』料理だったのだ…。