のれんをくぐって一歩店内に入ると、たいていその店の姿勢は判断できる。またいきたくなるような店は、店内に"気"が感じられる。主人がつねにお客の様子をうかがっているし、仕事に神経を張りめぐらせている。おかみさんが先頭に立っている店は、"間"が感じられ、居心地の良い空間があり、ふところの深さが伝わってくる。夫婦でやっている店は、その"気合"と"間合"を微妙に引き立てあうバランスがある。
(p1-2)
先日書評を掲載した「超すごいラーメン」と同様に、武内伸さんによるラーメン本。1999年に出版されたこの本は、個人的な思い入れも深い。前年に出版された「石神本」と共に、自分の食べ歩きの最初の指標になった本である。

この本の最大の特徴は、表紙の「春木屋」以外にラーメン画像はなく、武内さんの筆致のみでラーメンが語られている点にある。昔のラーメン本は文章のみで紹介されている事が多かったが、画像が中心になった最近のラーメンの語られ方に慣れていると、読み返してみた時に新鮮な印象と、文章が持つ想像力を感じさせる。
紹介しているのは、東京都と横浜・川崎市のラーメン店から100店。このエリア選択の狭さは、当時のラーメン本では一般的な事だった。また、当時は「新横浜ラーメン博物館」に勤務していた事もあり、同館にある店は対象から外している。各店舗2ページずつ、1000文字程度のレビューになっているが、それで収まらない店は4ページになっていて、その思いの深さが感じられる。
100店は「醤油」「トンコツ」「味噌」「塩」「スペシャル」の5ジャンルに分けられているが、そのうち「醤油」が68店舗で、その他が8店舗ずつ。家系が「トンコツ」に、つけ麺や油そばが「スペシャル」に分類されていて、この頃はあっさり醤油ラーメンが主流であったことを感じさせる。
店の所在地やアウトラインから書きはじめ、ラーメンの内容を徐々に明らかにしていく書きぶりは、読み手をラーメンの世界に徐々に引き込ませていくのに十分であると感じる。その「何回もいきたくなる」理由を語ったのが「まえがき」にある引用部の文章。店主の"気"と、おかみさんが作る"間"の対比は、その後の武内さんの文章からも感じられた。
今となっては、武内さんがその後掲載していた携帯サイトの文章が跡形もなく消えてしまったのは残念というしかないが、この本では武内さんの筆の跡を楽しめる。この文章をもとに、ラーメン店を巡ってほしいとも思いますが、100店のうち半分近くが閉店しているのも、21年の時の流れを感じさせます。
