両親は「その春木なんとかの理論を学業に向けていたら…」とこぼし、今だに女房からは「その理論をもっと仕事に向けていたら…」などと冷やかされているのは、とても悲しい現実ではあるが、私に人生哲学を学ばせてくれた店こそ、まぎれもなく「春木屋」なのは確かである。
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 今では「ラーメンを語る」のは一般的な事だが、その流れを切り拓いた先達として、武内伸さんの名前を外す事はできない。1992年に「TVチャンピオン」の第2回ラーメン王選手権で優勝。1995年の第3回では石神秀幸さんに敗れて準優勝に終わるも、その「麺バカ」ぶりが話題を集め、1996年に出版されたのがこの本。表紙には、ディフェンディングチャンプがつけるゼッケンをつけてポーズを決めた武内さんの姿が。

 

 

 amazonのリンクを貼りましたが、絶版とはいえちょっと高すぎますね。楽天も検索してみましたが該当なし。

 第1章では、東京と横浜のラーメンについて11篇の「凄いラーメンの話」を掲載。「横浜ラーメン」の表現が中華街由来のラーメンに使われ、「吉村家」の味を「ニューウェーブ横浜ラーメン」としているのが時代を感じさせる。

 第2章では大学時代、第3章では社会人になってからの食べ歩きを披露。ラーメン店が少なく、その情報も少なかった時代の苦労話もあれば、上司の目をかいくぐり、出張の合間と最後にラーメンを楽しむ武内さんの姿が描写されている。


 第4章では「ラーメンとはなにか」をテーマにコラムを4篇。その後は「ラーメン王日誌」として31軒のラーメンとの出会いを1ページずつ掲載。その最初にある「春木屋」は、まえがきでも取り上げた武内さんのラーメン原体験の1杯。店で武内さんが聞いた「変わらない旨さだといわせるためには、常に味を向上させる」を「春木屋理論」と名付けている。その「春木屋理論」が家族にどう受け止められていたかを嘆いていたのが、冒頭の引用部(笑)。270円の「ラーメン二郎」や、今は無き「恵比寿ラーメン」「えぐち」「高揚」などの文章を、改めて読むのも趣深い。


 巻末には、武内さん推薦の全国350軒が掲載されています。これを参考にラーメン店を巡った人たちもいたと思います。そういった「ラーメンマニア第二世代」を生み出したのは、第一人者だった武内さんの大きな成果だったと思っている。


 私は2003年からの5年間、携帯サイトの仕事で武内さんとご一緒できたが、武内さんの真摯な姿勢に敬服しつつも、時折見せる無邪気な面にも思わず笑ってしまったり。2008年に武内さんが亡くなられて、新横浜ラーメン博物館で共に広報を担当されていて、武内さんの評伝を書く役目だと語っていた北島秀一さんもこの世を去ってしまった。ラーメンの作り手だけでなく、語り手の世界にもスポットを当てたいと思いながら、私の実力不足でそれが思うようにできていないという事には恥じ入るしかない。


 今のラーメン界とはずいぶんと状況が違うので、今の食べ歩きに役立たない面も多い。正直、プレミア値で買うほどではないが、格安で購入できる機会があれば、その歴史に触れあってみてほしいと考える。