帰る場所があって、
そこには自分のことをひたすらに心配し
世話を焼いてくれる母がいる。
 
 
「母」の役割が固定されていた昔は
「ふるさと」と「母」は
セットになって認識されていたと思います。
 
 
けれど、時代はもう2022年。
いろんな家族の形がある今の時代に
血のつながった母親だけがその役割を担うのは
時代遅れなのではないか?
そして、実際に「そういうお母さん」は
少なくなってきているのではないか?
 
 
そういう時代背景から
この物語は生まれたのではないかと
読みながら思いました。
 
 
物語の舞台は
東北地方のとある集落。
 
 
新幹線から在来線に乗り継いで一時間弱、
そしてさらにバスに揺られた先に
「母の待つ里」があります。
 
 
「母の待つ里」へ向かうのは
名の知れた大企業の社長、松永徹。
 
 
里帰りは40年ぶり、
選り好みをしているうちに
タイミングを失い独身のまま
社長にまで昇り詰めてしまった
器用なようで不器用な自分を
母は受け入れてくれるだろうか・・と
松永は心配になりますが、
バスを降りた先で出迎えた母の笑顔に
松永の心はほぐれていきます。
 
 
「けえってきたが」という
母の言葉は訛っているけれど聴き取りやすく、
心から松永を待っていたことが伝わります。
 
 
古いけれど整えられた家屋、
「おふくろの味」が染み込んだ郷土料理、
そしてなにより松永の帰郷を
嬉しそうにする母の姿に
松永はこみ上げるものを抑えきれません…。
 
 
60代の松永と80代の母。
昭和、平成、令和と変化の時代を
駆け抜けてきたふたりは
それぞれに思うところがあるけれど
お互いもう余計なことは言わず、考えずに
いま一緒にいられることのありがたさを
噛み締めるばかりなのです。
 
 
わたしが書いたあらすじだけを読むと
昔懐かしい「ふるさと」と「母」を思う
人情物語のような雰囲気が出ていますが、
この物語にはとても大きな「仕掛け」が
施されています。
 
 
ブログタイトルで匂わせていますが
このふるさとは「偽物」なのです。


どうして「偽物」なのか、
なぜ松永は「偽物のふるさと」へ
帰省しているのかを
詳しく書くのはもったいないので
ぜひ手に取ってこの「仕掛け」を
体感してほしいです。
 
 
松永徹のような
昭和、平成を生き抜いた人こそ
「母の待つ里」の存在は刺さります。
 
 
この物語が10年遅いと
すべてを包み込む「母」の存在に
ピンとこない人が多いかもしれない。
そして10年早いと現実離れした物語にしか
感じられないと思います。
 
 
2022年、
スマホが普及し、
AI技術が発達してきて
いろんなサービスが出てきている一方で
 
 
変化の時代に追いつくのに必死で
自分や家族を大切にする余裕などなく、
必死のトンネルを抜けた頃には
年を重ねた自分しかおらず、
大事なものが何なのか
よくわからなくなっている…
 
 
そんな寂しさ、虚しさを
抱えた人たちに、浅田次郎さんは
「ふるさと」と「母」を
届けたのだと思いました。
 
 
「ふるさとで子どもの帰りを待つ母」
という昔ながらの光景を描きながらも
物語展開は非常に現代的で、
 
 
「ふるさとに縛られたり
世話を焼いたりするのが母の役割なんて
固定してほしくないわ〜」と
ぼやきながら読んでいた
ひねくれもののわたしですら(笑)
惹き込まれてしまいました。
 
 
そして物語を読み進めることでわかる
母が「母」であり続けた理由に、
自分の人生経験のなさ、浅はかさを
嘆かずにいられなくなりました…。


子どもには子どもの、
(といっても60代のいい大人だけれど)
母には母の事情があるのです。
 
 
その事情が垣間見えるとき、
そして80代の母の思いに触れたとき
「偽物のふるさと」や
「母であり続けること」を
軽んじたり否定したりすることはできない…と
心から思いました。


子どものことをひたすらに心配し
ひたすらに世話を焼く存在は
「母親」だけに固定されてはいけないと
わたしは強く思いますが、


役割のことはさておき
子どものことをひたすら心配し
ひたすらお世話できるのは期間限定であること、
そしてすごく貴重なことであることを
噛み締めさせられました…。


大切な我が子と
いま一緒にいられるありがたさを
実感させられる傑作長編でした。
 
 
ネタバレをしたくないがために
ものすごく匂わせ感想文になり
申し訳ないです…
(匂わせの文章、個人的には苦手なので
申し訳ないです…)
 
 
この物語は2022年の今こそ
読まれるべき、ありそうでなかった
「懐かしくて新しい」物語だと思いました。


「今まで読んだことのない作品が読みたい!」
という方にはぴったりです。


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