課題図書はハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』(みすず書房)。
文学読書会なのですが、とうとう哲学書に手を出してしまいました・・・!!
読み通すのにかなり根気がいりましたが、無事に読み終えられてよかったです。
ハンナ・アーレントはドイツ系ユダヤ人哲学者で、1950年〜60年代にかけての政治哲学に大きな影響を与えた人物です。
もともとは純粋な哲学を専攻していたようですが、ナチスの台頭と反ユダヤ主義政策に巻き込まれたことにより、政治哲学の道へ進みます。
「ナチスが認める思想しか許さない」という「全体主義」を体験し、全体主義の危うさを体感したアーレントは、アメリカに亡命したのちにこの現象について研究・考察を重ね、『全体主義の起源』(1951年)、『人間の条件』(1958年)という名著を出版します。
その後、1961年に行われたナチスの元官僚アイヒマンの裁判を傍聴し、その記録と考察をした『エルサレムのアイヒマン』(1963年)が出版されるのですが、本書によりアーレントは大批判を喰らうのです。
なぜ大批判を喰らったのか?の前に、本書の内容をざっくりまとめます。
『エルサレムのアイヒマン』は、ナチス政権下でユダヤ人を強制収容所に移送させる任務の責任者となったアドルフ・アイヒマンの裁判の記録とアーレントの考察が書かれた一冊です。
ナチスの反ユダヤ主義政策による犠牲者は600万人以上とも言われています。
それほどの人数を死に至らしめた組織の一員(しかも責任者)なのですから、さぞかし「極悪人」なのだろう!!と人々は予想しますが、裁判がはじまると、予想とはまったく違う「悪人の実態」が浮かび上がってきます。
アイヒマンは権力に憧れた出世欲の強い人間で、上からの命令に忠実な人物でした。
理想が強いあまりに(?)嘘をつくところがあったり想像力に欠けるところがあったりしましたが、彼は「ユダヤ人を憎む気持ち」はまったく持っておらず、ただただ「任務を全うしただけ」だと主張するのです。
ナチスの一員であったアイヒマンにとって、ヒトラーの言うことは絶対であり、逆らえない「法律」でもあった。
その「法律」の行き先がとんでもないこと(ホロコースト)であったとしても、自分は「法に従ったまで」で、罪の意識がほとんどないばかりか「法律をまじめに守った優等生」とでも言わんばかりの態度をとるのです。
本書ではアイヒマンがどのようにしてナチスの全体主義に染まっていったのかと、良心の呵責にさいなまれずに最悪の任務を全うするに至ったかが克明に綴られています。
「組織の方針だから仕方ない」
「立場上、任務を全うしなければいけない」
この感情って、社会人として組織に所属していたら誰もが頭によぎったことがあるのではないでしょうか?
アイヒマンは善悪の判断を上の方針にゆだね(=放棄し)、任務を全うすることだけに集中しただけだったのです。
本書を通して、アイヒマンはそのとき従った「法律」さえ違えば、普通の人間と変わらない平凡な人物だったこと、イスラエル国家が彼を「極悪人」として裁こうとして失敗したことがあぶり出されたことで、アーレントは大批判を喰らいます。
この批判は「ナチスの味方をするのか!!」「大勢の同胞が犠牲になったというのになんてこと言うんだ!!ひどい!!」といった感情的なものです。
600万人もの犠牲を出した「犯人」の実像が「わたしたちと変わらない」という結論だったら、誰だってモヤモヤしますよね・・
アーレントは「犯人」を叩いてスッキリしたい、という人々の心理を否定したのです。
読書会では上記の炎上こそがアーレントのねらいだったのではないかという意見が出てハッとさせられました。
以前読んだ『FACTFULNESS』で人々は「悪いものごとには必ず「犯人」がいる」という思い込みがある、ということが書かれていましたが、アーレントが突いたのはまさにこの「犯人探し本能」で、「犯人」を探したところで問題解決にはならない、ということを言いたかった(そして読者に何が本当に問題だったのかを考えてもらいたかった)のではないか、そしてそれが見事に成功したから大炎上したのではないか・・。
もしそうだったとすると、アーレントはいかに肝の据わった人で、哲学者としての生き方を貫いた人だったのだろう、と感服させられます・・。
わたし個人が感じたのは、「誰もが簡単に悪人になりうる」ということと、本書が現代にもじゅうぶん当てはまることの恐ろしさでした。
組織の方針に盲信的な人、権威主義な人、立場を重んじる人など「アイヒマン的」な人は身近にもいる・・と思い浮かんでしまうからです。
もちろん立場や役割が与えられることでその人の能力が伸びることだってあります(もしアイヒマンが素晴らしい上司のもとにいたら、偉大な人になっていたかもしれません)。
ですが自分の置かれた環境(組織)によっては、悪に加担する結果につながることもあるのです。
(従わざるを得ない空気が強かったら、人はどんなことであれ割と簡単に服従してしまうものなんです。。人は弱い生き物ですね。。)
(従わざるを得ない空気が強かったら、人はどんなことであれ割と簡単に服従してしまうものなんです。。人は弱い生き物ですね。。)
「悪」は思った以上に自分の身近にあるということを、本書を読んで痛感させられました・・。
無自覚に悪に加担したアイヒマンのようにならないためには、「考えることをやめない」ことが何より大切です。
考えることをやめないとは、価値判断を他人にゆだねず、また多様な価値観を受け入れ、常に自分の考え(価値観)を更新させていくことだと思います。
言うのは簡単ですが、自分の価値観を信じることも多様な価値観を受け入れることも意外と難しいものです。
自分に自信がないと特に誰かの価値観に盲信的になりやすいです(身に覚えあり・・)。
じゃあどうすればいいのか?
読書会メンバーから「ひとりで考えない」ことも大切だという意見が出て「確かにそうだ!」と膝を打ちました。
ひとりで悶々と考えているよりも、だれかに話すことで自分の考えがまとまりますし、多様な意見を聞くことができるからです。
これからも読書会という場所を大切にしていきたいと強く感じました。
『エルサレムのアイヒマン』は人から「考える」ことを奪った全体主義の罪深さとみんなで考えることの大切さを噛み締めさせる一冊でした。
今日もとても濃密な読書会になりました!!
〈参考動画〉
ハンナ・アーレントの生涯を描いた映画。アイヒマン裁判も出てきます!
↑『エルサレムのアイヒマン』をとてもわかりやすく解説している動画です(この動画のおかげで理解が深まりました!ありがとうございました!!)。
「100分de名著」も参考資料に良さそうです!
※おまけ※
この勢いで『人間の条件』も読みたい!と思って少しだけ読み始めましたが、難解さがケタ違いで開始30ページぐらいで心が折れそうです・・笑
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