三浦綾子『愛するとは許すこと 明日のあなたへ』(集英社文庫)を読みました。


「愛するとは許すこと」という言葉が胸に刺さり、手に取りました。


本書は三浦綾子さんのエッセイ集で、代表作の『氷点』ほか数々の著作に通じる三浦さんの思考のエッセンスがちりばめられた一冊です。


三浦さんは20代前半で肺結核を患い、その他の病も患いなんと13年もの闘病生活を送ります。


特効薬がまだ開発されていない時代で、隔離された部屋で安静にするしかない日々に三浦さんは心も身体も挫けそうになってしまいます・・


そんな三浦さんを救ったのが、“神の教え”でした。


同じく肺結核で闘病していた幼なじみが敬虔なクリスチャンで、闘病中も苦難にも負けずに心清らかに過ごす姿に感銘を受け、三浦さんは洗礼を受けるのです。


その後幼なじみは病に倒れ亡くなってしまいますが、三浦さんは幼なじみへの思いや信仰をさらに篤くし、そして快方へ向かっていきます。


そしてその後、37歳で最愛のパートナー・三浦光世さんと結婚し、41歳で朝日新聞社の懸賞小説に投稿した作品『氷点』が入選し、作家人生を歩むことになるのです。


10代は戦争に振り回され、20代は病に振り回された、決して光ある青春時代ではありませんでしたが、そうした時代があったからこそ培われたものもあり、エッセイでは過去を振り返りながらいまを感謝する三浦さんの清らかで凛とした心模様が垣間見えます。


「三浦が私に会った時点では、二人の結婚は誰にも考えられないことでした。それが、五年目の春、私は白いウエディング・ドレスをまとって、彼の花嫁となりました。私は三十七歳、彼は三十五歳でした。
自分の結婚ではあっても、私は幾度もこの結婚に感動を覚えます。三浦は「待つ」と言ったのです。この「待つ」という言葉は、「待ち望む」と言ったほうがよいかも知れません。聖書に、
<必ずや待ち望め>
という言葉があります。でも私たち人間は、今思ったことを、今すぐにしたいのです。今しなければ、何もかもが失われてしまうと錯覚するのです。」(151頁)


わたしはクリスチャンではありませんが、三浦さんがしばしば引用される聖書の中の言葉がすごく染み入りました。


待つということ、忍耐強さをもって許すことはどちらも簡単なことではありません。けれど、それができると人間の器が大きくなり、人に優しさと慈しみを持って接することができるようになります。


なかなか「待つ」ことができない自分、「許す」ことができなかった過去の自分を振り返り、自分はなんて未熟な人間だろうと頭が下がりっぱなしでした。


三浦さんはエッセイのなかで人間の罪深さ、業についてていねいに解説しています。


「人間という者は自分を罪深い者だなどと、恐れ入ることの容易にできない存在なのだと思う。人と自分が同じことをしていても、その評価は異なる。(中略)同じことをしているのだから、同じように評価すべきなのだが、私たちは生来、不公平に人を審(さば)いているのだ。(中略)
しかし、本当に自分が悪かったと思う時、人間は思いもかけぬ大きな平安が与えられるのだ。罪がわかった時、神が見えてくるのだ。驚くべき新しい世界がわかってくるのだ。
人間はどれほど他者を許したかで、その人間の価値がわかるとも言われている。」(17頁)


この一節が強く印象に残りました。
「不公平に人を審」かず、他者を許せる心持ちでいるためには、想像力を豊かにできる視野の広さがなくてはならないと思います。


視野が広くあるためには、心の余裕もなければなりません。


わたしはこれまでも「心の余裕拡張」のために生活の工夫をし続けていますが、30代のスタートを切ったばかりゆえに、まだまだ自分の未熟さを思い知らされることばかりです。


心の余裕拡張の工夫は続けながらも、つい人に対して怒りが湧いてしまったときに、この言葉を思い返せる人間でありたいと強く思いました。


このエッセイを読んでから三浦綾子作品を読むと(特に『氷点』)、味わい深さがさらに増しておすすめです。


身近ではなかった信仰の話にも触れられ、新鮮な刺激のあった一冊でした。


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