真由子は、親友の息子・直巳(なおみ)とただならぬ関係を持つ。親友の百合は真由子が小学校高学年の頃に自宅の隣に越してきた時からの付き合いであり、真由子の復讐相手でもある。
真由子は編集者の父と医者の母のもとで何不自由なく育ち、お屋敷と呼ぶべき自宅の離れに住まう作家志望の諒一に長年想いを寄せていたが、ひそかに百合が諒一と関係を持ち、諒一との子供を妊娠しあっという間に結婚してしまう。
初恋の人と復讐相手から生まれた子を「直巳」と名付けたのは真由子である。谷崎潤一郎『痴人の愛』の譲治とナオミを引き合いに出し、譲治はナオミを自分好みの女に調教しようとした結果ナオミの妖艶さに翻弄されてしまうが、真由子は直巳を「ナオミ」のようにはしないと誓う。「痴人」にならず、「賢者」として直巳を完成させることが真由子の目標となったのだ。真由子は22歳年下の直巳の成長を見守りながらじっくりと調教していく…。
徹底した不遇さと惨忍さを持つ百合は、異様な妖艶さを放って真由子の周囲の男性を惹きつける。恵まれた環境で純粋に育った真由子は、百合の悪魔的な行動に翻弄され、諒一との結婚を境に憎しみを抱くようになる。百合は真由子の恵まれた環境を羨み、寄生するように真由子の幸福を奪っていく。複雑な愛憎劇の先には純粋に真由子を想う直巳の姿が描かれ、直巳の純粋さが彼らの愛憎をより際立たせている。
いびつな愛を一途に守り続ける直巳、憎しみゆえに狂気的な復讐としての調教を続ける真由子、生まれながらに悪魔的な百合、どんなことがあろうと小説家の好奇心を隠さない冷酷な諒一。登場人物の誰もが痴人のように思えてくるが、痴人を貫き通そうとする彼らこそ「賢者」なのかもしれない。