特別企画 番外編③ 能の道具 其の四 | 能meets

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観世流能楽師 林本大による
わかりにくいからこそ面白い能の、わかりやすく「濃密」な講座。
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能meetsブログ特別企画

番外編③ 能の道具 其の四

 

今回のテーマは 「祈る」  

 

道具にも具象と抽象があると前回の「攻める」でお伝えしましたが、今回は割と具象なものばかりだと思います。

 

そういえば舞台で言う大道具や装置に値する「作り物」は抽象的なものが多いですよね…というか具象的な作り物ってあったかな??

大きさとかももちろん「家」とか「山」とかはね、そのままってわけにはいきませんし、でも「船」は結構抽象の最たるものな気がします。

あと籠の表現も。

またこういったお話も聞いてみたいですね。

 

さて「祈る」です。

もともとお能は死者との対話であったり、亡くなった人への想いや、亡くなった人の想いを描いているものが多いのでこの「祈る」という表現はよく見られますね。

 

こちらは、木葉と数珠

 

 

前回、打杖の時にそれと対峙する数珠として、刺高数珠というものをお伝えしましたが、僧侶が鬼を倒すときによくそれを両手でこすり合わすような所作をします。

初めて見たのは「安達原」でした。なんだろうこれは?と思った不思議な動きでしたが、多分戦っているんだろうなぁということはわかりました。「安宅」でズラッと揃った9人の義経の家来たちが刺高数珠を全員でジャラジャラするのは壮観でした。

 

それとは違い、こちらの数珠は小さいです。

これは女性の役の時に持つもので、小さな数珠だそうです。

「井筒」の前シテ(前半の主役)の女性が、在原寺にお参りに来た時に右手に数珠を持ち、左手には木葉を。

 

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この木葉は樒(しきみ)といい、仏前に供えるもので、樒には毒素があり、その毒で死者を守ると伝えられているそうです。

よくお仏壇やお墓に供えられているのはこの樒ですね。

 

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数珠も木葉も小さいので、お客様には分かりにくいかもしれませんが、持つ道具の大きさにもこだわっているそうです。

井筒の女のような役の時にはあまり大きくならないようにしているというお話でした。

 

舞台だからと言って、わかりやすくデフォルメして大きくするとかではないのですね。

 

 

こちらは、幣(へい)
 

 

数珠が仏前であるのに対して、幣を使用するのは神前です。

神楽を舞う時に使用します。

例えば「絵馬」でシテの天照大神が岩戸隠れした前で、ウズメノ巫女が舞うときなど。

他には「賀茂」に登場する別雷神や、「小鍛冶」でワキの宗近が祭壇で祈る時、「巻絹」では神がかりした巫女が持ちます。

 

 

弊にも、「男幣」「女幣」とその作りによってわかれています。

文字通り使う人が男か女か、で別れるそうです。

なので先ほどの「賀茂」「小鍛冶」は男幣

「絵馬」「巻絹」は女幣です。

 

そしてこちらも先生自ら作ったそうです!

先生が持っているのは「男幣」のみ。

これをどうやって作るのか聞いたところ、先輩から教わったりするそうです。

 

「女幣は作らないんですか?」とお聞きしたら

 

「男も女も作り方をノートにメモしたのですが、女幣のみ作り方がわからなくなって、そのメモを探してもないんです。」

と、悲しそうに仰いました。

 

そんな先生から伝言です。

 

林本:

このブログをご覧になった能楽師の方は、林本まで女幣の作り方を教えて下さい。

 

とのことです。

何卒宜しくお願い致します。スタッフからもお願いいたします。

 

 

メモということは図解で教わるんですね、そりゃこれはさすがに口伝では無理ですよね、と私がいうと先生が

 

「いえ、口伝です。それを私が忘れないよう、図解で残したメモです。」

 

口伝!?

 

 

 

これを口伝で…!?

 

昔、絵描き歌を聞いただけて、その絵を描いてみたらおかしな絵になる、というのをテレビで見たことがありますが…
口伝で、私が幣をつくると全然違うものが完成しそうです。

 

 

いや、例え図解であっても工作が苦手な(手芸だけでなく…)私には無理そうです。

実際かつて能meets北浜で幣を使用し、その片づけを手伝っている時に、畳むことすら出来ませんでしたあせる

 

 

ぜひ、先生が再び何方かから教わった暁には、図解したメモを拝見したいので、ご連絡おまちしておりますっ!!

 

 

 

さて、戻りましょう。

 

私が祈ると聞くとすぐに思ってしまうのがこちらの

鉦鼓

 

 

こちらを使うのは「隅田川」のみ。

私の大好きな曲です。去年能meets新橋で取り上げて、スタッフにもファンが多いです。

4月の能meets北浜でも取り上げるはずでした。とても残念です。

でも先生はまたいつか必ず取り上げますと仰ってくださったので、その日を楽しみにしています。

こちら、お能には珍しく、実際に打ち音を立てます。

 

 

どんな風な音にするかは、シテによって変わるそうです。

探して探してやっとたどり着いたのは、さらわれた子供の眠る塚。

その前で亡き子供を弔うために母が打つ鉦鼓。

 

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決して大きな音ではないですが、終盤にどう響くのか、是非とも見ていただきたい曲のひとつです。

 

これは作ったわけではなさそうなので「先生が買ったのですか」と。

「そうです」と。

「いつ使うのかわかりませんが」と添えられましたが…

いつか先生の「隅田川」拝見したいと勝手に思っております。

 

 

最後は守(まもり)

 
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お守りとして使われるそうです。

こちらも先生のお手製。赤で作られることが多いそうです。

 

使うから作ったのですか?とお聞きしましたが

「ちょうど布があって、この大きさだとこれが作れるなと思ったので作りました。」と。そんな理由で。

 

必要に迫られて作ることももちろんあるのでしょうが、普段から準備をしておくことも大切なのですね。

今のこの自粛期間。けっこう自宅で道具を作っているというお話もお聞きしました。

 

この守

「清経」では戦場で亡くなった主人の遺髪がこの中にあり、淡津三郎が妻にこちらを持ってきます。

それを受け取ることを拒否する妻。

 

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「清経」も何度か拝見した大好きな曲です。

 

まだ先生はこの自作の守を使ったことがないそうですが、

「赤ではない守がいいと仰った方がいらして、お貸ししました。」と。

清経の妻の装束が赤なので、重ならないものをその方は希望されたそうです。色々な理由で道具を選ばれたりすることがあるんですね。

 

そういったところに注目して舞台を観るのもまた楽しみです。

全てが拘りなんですね。

 

自分で作ることが多い道具ですが、形や色は決まりがあるものの何を使って作るかなど素材はそれぞれで工夫されているとか。

以前先生が「ホームセンターに行った」と話されている時、プライベートで必要なものの買い物かと思いましたが、道具の素材を探しにいったそうです。意外なものが意外な道具作りに役立ったりもするそうです。

また能meetsでも先生自作道具のお話を、実物を見て聞いていただきたいです。

 

ご自身で工夫されているところがまた面白いです。

物を大切にする気持ちも生まれますね。

 

次回のテーマは「読む」です。