能meetsブログ特別企画
番外編③ 能の道具 其の一
前回も出ましたが、今回から番外編③として更に更新を続けていきたいと思います。改めてよろしくお願いします!
さて、道具の中でも「座る」道具について、そして「座る」という事自体について今回はお伝えしていきます。
杉江能楽堂にある床几はこの鬘桶
そして囃子方の座るこちら。
二つとも床几と言うそうです。
混乱しませんか?とお聞きしましたが、鬘桶に囃子方は座るのは極まれであるため「床几を持って来て」といわれたその状況で、どちらの事を言っているのか判断できるのでまず間違うことはないそうです。
この鬘桶、かなり年季が入っています。
上の画像は「悪い例」で
…え!?それはもう腰を掛けていませんよね!?
要は空気椅子の状態であるということです…。
地謡を見て、正座無理!と思っていましたが、どうやら鬘桶でも無理そうです。
囃子方がこの鬘桶に座るのは「屋島」の小鼓のみ。
それも弓流という小書(特殊演出)がついたときだけだそうです。
※こちらは延期となってしまった能meets新橋の曲解説で予定していた曲でした。
6月28日銀座SIXにある観世能楽堂で開催予定の「第四回 武田宗典之会」で演能されます。(5/4 時点開催予定)
鬘桶には腰を掛けるだけではなく、ここに肘をおいたりもするそうです。
「土蜘蛛」などで見たことがあります。
狂言では「柿山伏」などでこちらの上に登ったり、有名な「附子」などでも蓋を盃に見立てたりもしますが、お能ではそのような使い方はないそうです。
そしてこちらの床几。
普段は小鼓方、大鼓方のみが座っていますよね。
お能ではこちらの向きで座りますが…
時代劇なのでよくみかける戦国武将たちはこちらのバッテンが前にきた座り方をしています。
「文人座り」と「武人座り」があるそうです。
武人座りはバッテンが前となり、いざ!という時にすぐ立ち上がり、バッテン部分を蹴って椅子をすぐに跳ねのけられるように…ということだそうです。
なるほど…
お能を知るだけで、他の知識も備わります。
そもそもお能自体が、和歌や漢詩、万葉集などが引用されています。
ひとつを学ぶことで、色々と枝葉がわかれて知る事が出来るのも面白い所です。
そして、「座る」道具に注目したので、道具を使わずに「座る」ことにも先生にお聞きしました。
私も最初にお能を拝見した時、地謡や笛方、太鼓方の正座がとても印象的でした。
これはもう慣れだそうです。
何度も質問されたことと思いつつ、敢えて先生にお聞きしました!
「しびれないんですか?」と。
しびれはどうしても切れるらしく…もちろん人によるでしょうけど。
指を重ねたり、長い曲になるとわざとしびれさせて一旦感覚を無くすとか…とにかく人によってそれぞれ工夫とやり方があるそうです。
それも舞台に集中していると感じなくなるとか。なるほど…
ただ、立ち上がる時が肝心だそうで。
集中しすぎてしびれていることを忘れて立ち上がる事が本当に危険だそうです。
感覚がなくなっていても、しっかりと足の裏をつけて立ち上がることを意識しないと事故につながるそうです。
こうすれば正座は大丈夫!問題なし!はどうやらなさそうです。
お稽古や修行と同じで積み重ねと経験が大切で、近道はないということですね。
シテは正座はしないそうです。
この下居(シタイ)という座り方が基本。
仕舞もこちらから始まりますね。いつでも立てる座り方だそうです。
左ひざは立てて、右は正座のようですが爪先を立てています。
これが意外としんどいそうです。
ご覧いただいている皆様もぜひちょっとやってみてください。
本当にしんどいです…
トクト下居
落ち着いている時の表現。長時間座っている時の座り方です。
「井筒」などでされます。
先生が実は苦手だそうです…!あるんですね、苦手とか。
舞や謡も難しいのですが、この何もしないでじっとしている時間。
しかもこんな格好で!これがまた厳しいですね…
こちらは居立ち(イダチ)
下居からやや中腰になった形ですね。
長い間ワキと話をしていたシテが、いよいよ正体を明かしたり、何かアクションを起こそうとする時の動きです。
トクト下居の状態から、グッと腰を上げるだけのこの動きで、シテの思いをワキに訴え掛ける力を出さないといけないそうです。
そして安座
あぐらに見えますが、実は左足はあぐらですが、右足は正座の形になっています。
安座の表現は例えば「鵜飼」で地獄に落ちた時など
倒された、精神的や物理的に屈した場合
・足を斬られてその場に倒れ込む
・子を探す母が絶望にうちひしがれる
と、
ガンとしてそこに居座る場合
・葛城山に長年生きている土蜘蛛の登場
・さらわれた子を救う、自然居士が私も諸共に連れて行けと舟にどっかと座る
などにされるそうです。
ちょっと反対の意味にもとれるような、二つともに同じ安座を使うのがまた面白いですね。
もちろんこれも舞台を観ている時には前後のつながりから、しっかりとどういう意味での安座なのか観ている側が想像するんですね。
立っている状態から飛び上がってこの安座になるのが
飛び安座です。
これも最初に見た時に衝撃で声が出そうになりました。
こんな動きがお能にあるとは!そして誰もが出来るものではないですよね、見るからに痛そうだし危険そうで。
他にも仏倒れという後ろ向きにそのまま倒れるという…
これも練習は出来ないと。
どういうことですか!?
もちろん座った状態から、とか柔らかいものを敷いてとかはするそうですが、その能舞台で本当にやるのは本番のみ。
舞台の集中と意気込みの中でしか出来ないそうです。
…これはもう実際に見て頂かないと!「正尊」ではバッタバッタとされる仏倒れが圧巻でした。「烏帽子折」もそうですね。「土蜘蛛」でもこの演出でされるのを拝見したことがあります。
そして特別に飛び安座を連続写真で撮らせていただきました!
撮影している私の方が、思わず声がでました…
動画でなくて良かったです。
更に3度も先生は飛び安座を披露してくださいました。
…これはちょっとやってみました、とはいきませんでした。
最後に先生が仰った言葉を添えて
林本:
座るという所作は、日常生活では特段取り立てる程の動きではありません。
ですが、能の場合「立っているシテが座る」または「座っていたシテが立つ」という動きに非常に意味を持つのです。
例えば子の出世と引き換えに海で死んだ母の霊が、また海中に沈んでいくのも「その場に座る」だけ。
これはまず「きちんと立つ」という能の構えがしっかり備わり、その上でタイミング等様々な要素もあいまって、「座る」だけの動きでも、それがお客様に訴え掛ける。
普段の生活で行っている動作が、能舞台では違う景色となって表現されなければいけません。
やはり、削ぎ落されたり、非日常的な表現が多いお能の特徴ですね。
シンプルに見えるものでも、簡単なわけではない。
ただそういった特徴的な引き算された表現で、普遍的な想いや感情が伝わる時に、私は圧倒されるのだなと改めて感じました。
今回は「座る道具」から「座る」という事自体についてお伝えしました。
単純な説明になりそうなものでも、林本先生の経験や考えを聞く事によって、さまざまに広がる世界が本当に面白いと思います。
次回もまた、能の道具をピックアップしてお伝え致します!













