軽井沢駅北口を出て、ロータリーの右側にあるのが昔ながらの駅前食堂、「まるほん」

 

ここは筆者にとって軽井沢での調査を終え、新幹線に乗る前に早い夕食をとるために寄るところ。

駅構内のお店、駅弁などより良い。特に価格が観光地価格ではなく良心的だ。

 

識者から「このお店は古いです」と聞いていた。

 

今回興味を持って店内を見たら、古い写真が飾ってあった。そしてそこには興味深い事実が。

まず「丸本旅館」という看板が建物に掲げてある。ひらがなで書く「まるほん」は元は旅館で「丸本旅館」という名の駅前旅館であったのだ。

 

また丸本旅館の前は踏切で、簡単な遮断機があり、その中を草軽電気鉄道の電気機関車が貨物を引いて通過していく。同型の機関車は現在軽井沢駅ロータリー逆方向の左側に1両保存されている。こちらには機体番号「13」が読めるが、お店の写真からは「17」が見える。

その写真は1959年8月の撮影で、1960年に新軽井沢 - 上州三原間が廃止される直前のものだ。

 

特にお店を営むお母さんと娘さん(?)から、ほぼ一見さんの筆者は、古い話を聞くことは出来なかった。

よって本編ではこの丸本旅館と、草軽電気鉄道の「新軽井沢駅」付近について独自に調べるものである。

 

<丸本旅館>

 

旧中山道沿いには古くから、本陣以下、数多くの旅館が旧軽井沢にはあったが、旧中山道に面していない丸本旅館が建てられたのは、1888年の軽井沢駅開設以降といえよう。

 

『日本漫遊要覧  上之巻 訂正版』(1899年)に上毛吾妻郡「澤渡温泉元 常盤樓丸本旅舘」(福田丸右衛門)という旅館があった。そこは今も「まるほん旅館」として続いている。こちらの駅前食堂「まるほん」同様に平仮名だ。ここがルーツではないか?

実はその後、この推測は正しくないことが判明。パート2を参照下さい。

 

一方近代軽井沢のもっとも古い地図と思われる「信州軽井沢の全景」明治34年(1901年)では駅前には「山屋」、「油屋」、「佐藤」などが見えるが「丸本旅館」はない。その後、おそらく旅館「佐藤」の跡に「丸本旅館」が入ったと思われる。

 

丸本旅館が最初に見つかったのは『湯けむり : 詩文小品』(平井晩村 1918年)である。

「輕い微笑を殘して、自分等は丸本旅館の離座敷に枕を借りて橫になった。睡るともなくとろとろして目が覚めると、冷気が肌に忍んでくる。

発車時刻に(草軽電気鉄道の)停車場に行くと、ボギー電車にも足らぬ可愛らしい客車が2両、機関車の後ろに繋がれてあった」

これは現在の位置の軽井沢の丸本旅館が舞台である。1918年には今の場所にあったことが分かる。また停車場はまさに旅館の横だ。

 

次いで『法曹公論』(1929年)という雑誌の広告に以下の広告がある。

「万座温泉『豊国館』
御案内所 軽井沢駅前丸本旅館
     草津電鉄石津平駅前 丸本支店」

 

「豊国館」は1927年の開業で、こちらも現存する。丸本旅館は軽井沢駅前でその代理店の様な役目を担っていた。こちらも親族関係などがあるか?

支店のあった石津平駅は草津温泉駅の3つ手前の駅だ。上毛吾妻郡の丸本温泉との繋がりをも思うのは筆者だけであろうか?

 

 戦後は冒頭の1959年の写真に続き『ブルー・ガイドブックス ; 第20』(1961年)に丸本旅館の名前を見ることが出来る。

 

『限りなき自主管理のみち : 協会35年のあゆみ』(1985年)には、昭和58年度(1983年)の食品衛生優良施設として「(株)レストランまるほん」の名前が載っている。

 

<草軽電気鉄道>

 

すでに何度か登場した草軽電気鉄道は現在の軽井沢駅(当時は新軽井沢駅)と草津温泉を繋いで、1926年に全線開通した。

下記の地図を見ると国鉄(現JR)の軽井沢駅があり、そこから垂直に草津電気鉄道の「新軽井沢駅」が伸びていることが分かる。そしてその駅上部から弧を描いてJRの方に向かうのは貨物の引き込み線であろう。おそらくJRと横付けして貨物を積み下ろしした。

 

この線路の内側、ほぼ軽井沢駅あたりから丸本旅館を写したのが、店内に飾っている写真であることが分かる。写真の手前の道路は、碓氷新道(国道18号)であろう。

貴重な姿である。

「輕井澤別莊案内圖」(1935年 国会図書館デジタルコレクション)

 

<現在>

 

冒頭にも書いたが、筆者が1日の疲れを癒す場所のまるほん。

残念なことはオフシーズンは閉まっていることも多い。空いている時もあまり混んでいない。インバウンドの訪問者もほとんど見ない。また1階はお土産物屋だったようだが、こちらはもう営業をしていない様だ。

この状況を見て大手デベロッパーが触手を伸ばさないか心配だ。何しろ駅前の一等地である。

 

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