<序>

2013年3月20日、筆者は伊藤正義さんという方よりメールをいただいた。
それによると当ホームページで紹介している加藤眞一郎さんの体験に基づく「日本人小学生の体験した戦前のドイツ」の中で紹介した「開校記念日」の写真に関し、前列左から二人目が伊藤さん本人であるという。早速写真を送っていただいたが、それが下の写真である。

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次のやや黄ばんだ写真が加藤さんの保存しているものであるが見比べて、70数年の年月を経て変化を遂げたのが感慨深い。また本邦初公開と筆者が意気込んで紹介した写真であったが、すでに辻正義さんにより図説「昭和の歴史」6(集英社)という本にも掲載されていた。

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ベルリン会の幹事でもある加藤さんはこの前列左から二人目の人物を覚えており、伊藤正義さんではなく、辻正義さんではないか?と私に問い返してきた。聞くとその通りで、戦後結婚して辻姓から伊藤姓に代わっていたのであった。

八十四歳の加藤さんはここに写っている小学生ほぼ全員の名前をスラスラということが出来る。もうこの写真の中で、お元気な人は加藤さん自身と姉の綾子さんだけだと思っていたので、思わぬ生存者の出現に加藤さんも喜んだ。

また改めて写真を見るとあまり日本人らしくない顔立ち、衣装の子供もいる。例えば後ろから二列目左から二人目、右端の女の子である。彼女らは当時の満州国外交官の子弟であった。加藤さんの記憶では5人ほどがそうである。日満友好の国策の元、満州国人も日本人学校に通ったのであった。

さらに辻正義さんはお父さんの転勤で1939年にはベルリンからモスクワに移った。筆者にとって戦前のモスクワの体験談は初めてのことで、その点からもとても興味を持った。本編はそうして辻正義さんの欧州での生活を追うものである。

最初にお断りしておくと伊藤(辻)さんはご自身で、「母と生きた時代の思い出」という形で、すでに当時の体験をまとめておられる。ここで紹介する内容はそこからの引用が主となることをお断りしておきます。
特に写真を戦災で失わなかったため、貴重な写真がたくさん残されている。それらを多く紹介し、筆者のコメントを添えていきたい。


<生い立ち>

辻正義(以降正義と記す)さんの父親、辻正直(以降正直と記す)さんは1901年生まれで1921年4月、日露協会学校(ハルピン学院)留学生となる。同学院は日露間の貿易を担う人材育成を標榜して、旧満州国ハルピンに設立された。同校出身者で有名なのは杉原千畝(すぎはらちうね)であろう。

杉原は1939年8月、バルト海のリトアニアの首都カナウスで領事在任中に5000名のユダヤ人に、日本を通過してアメリカなどに渡るための査証を発給し彼らを救ったことで、広く世に知られている。杉原は1900年1月1日生まれで1919年9月ハルピン学院に入学するので、まさに父正直と同世代である。そしてほかにも類似点を筆者は見つけるがそれは後述する。

正直は1924年4月に同校を卒業後、6月外務省嘱託欧米局第一課に配属となる。第一課は”ロシアサービス“と呼ばれたソ連の担当である。続いて二課がヨーロッパ諸国、三課が南北アメリカという担当割であった。翌年通訳生としてウラジオストック勤務した後ハバロフスク、上海の勤務を経て1930年3月、外務書記生としてモスクワに勤務となる。そしてその年の1月には宮原静子と結婚をする。静子は当時19歳であった。

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1933年1月1日モスクワ大使館にて 。 右から3人目は広田の後任の太田為吉大使? ほぼ中段右から2番目が正直。モスクワゆえか、心なしか皆堅い表情である。

そして1931年1月5日、長男正義が生まれる。本編のいわば主人公はモスクワで生まれたのであった。兄弟について先の述べておくと翌年に次男正道が生まれるが幼くして赤痢で亡くなるが、その後正敏、正行と生まれる。 

正義が生まれた時のソ連大使は、父正直と同じ福岡出身で、後の首相経験者でもある広田弘毅であった。広田家とは家族ぐるみで懇切にしてもらっていた。広田大使からもらった誕生祝いの飾り皿を、正義は今も保管している。

 

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正義誕生

モスクワでの生活について、正義は全く記憶にないが、写真を見るとかなり豪華な暮らしだったことが推測される。女中も子育て係、料理の係など別だったようで、食事、食器なども高級品だったという。与えられたおもちゃの木馬は、毛皮で覆われた馬は本物のようで誠に立派であった。ソ連の遊具は日本のより優れていたということなのか、それとも西側寄り持ち込まれたものか判断はつかない。正義が2歳の1933年に一家は日本に戻り、正直は外務省で電信課に配属となり、以降欧米局1課、欧亜局1課と勤務する。

 

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モスクワ日本大使館前にて。母静子(左)と正義(中央)右は女中の一人?
 

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正義の記憶にある立派な木馬 女中ニーニャと
 
第一部以上
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