料理長のシゲさんの体重は100キロ近い。
角刈りで耳も擦り切れてタラコのようになっていた。
元柔道選手で男気も強いのだがセコイ部分もある。
よく遊びに来て野人の武具やナイフを手に取り、「これ・・いいなあ」と言ったらもう自分のものなのだ。
その調子で酒でも何でも持ち帰る。
笑えて何とも憎めない男なのだが度が過ぎると
パ~ン
・・と頭を張り倒すのだ。
ある日同じヤマハグループの事業所からシゲさんの後輩が手伝いに来た。
シゲさんは酒を飲みながら彼に随分ぼやいたらしい。
その彼が野人に言うには、シゲさんが「俺は男の世界に生きて腕っ節にもそれなりの自信がある。
それなのに・・それなのに、あの男は俺の頭を平気でパンパン張るのよ・・」と言ったらしい。
彼が「え~!そんな男いるんですか?そいつは化け物ですか?」と言うと
「あいつは凶暴
で俺のことなど屁とも思ってないんよ~」そう言って嘆いていたらしい。
それを聞いて思い切り笑ってしまった。
野人は年下で体重も68キロなのだ。しかし腕相撲はシゲさんには負けなかった。
マージャンもよくやるし仲は良い。たまに張り倒すだけなのだ。
シゲさんは遊んでいる割には調理の腕は良かった。
しかしあの顔で、何であの繊細な味が出せるのかわからない。
翌日さっそくじいさんが来たが、施設に到着するなり魚介のイケスに直行、何を食うか物色するのだ。
じいさんがイケスを覗き込むと、あの性格の悪いカニが戦闘ポーズをとった。
じいさんはびっくりして腰が引けたが、「こいつを食わせろ!」と憎しみと食い気を込めて言った。
食用かどうか地元で聞いて見たのだが誰も食べたことがないのだ。
「こいつは食えるかどうか・・それに性格も悪いし不味そうです、やめておいたほうが・・」と言うと
「バカ
食べてみないとわからないだろうが」
と・・また叱られた。
それと野人が数日前に海に潜って獲って来た大きな貝を食うと言い出した。
貝は施設の前の海の水深15mの砂底にゴロゴロしていた。素潜りでいくらでも獲れる。
大きいものは1キロくらいでけったいな形をしていた。
入り口がピンクで、女性のアソコにそっくりで目まいがする。
調べる為にイケスに入れていたのだが、じいさんが食うと言うなら仕方ない。
シゲさんは調理した事も食ったこともないカニと貝だったのであせった。
「おい、大丈夫か?あんな得体の知れんモン社長に食わせて、死んだら俺の責任やで・・」
「じいさんが食うと言い出したら止まらん、食わせれば食えるかどうかわかる」
シゲさんは「お前・・あのカニに負けずええ性格しとるなあ~・・」と感心していた。
調理場のドアから、不安そうな料理長と二人でじいさんを見ていたら、料理をじい~っと見つめてなかなか食べない。
じいさんが女の子に何か言った。
彼女は調理場まで来て
「社長が、野人を呼べ・・と言っています」
嫌な予感がした。
じいさんの横へ伺うと、前の席に座れと言う。
前に座ると一言・・
「お前 食ってみろ・・」
・・やはりこうなる。
カニと貝をじ~っと見ているとじいさんが
「早く食べないか
」・・とせかす。
仕方ない、これもボディガードとしての仕事だ。
毒味唇役として食べてみるとこれがまた旨かった。
あのエッチな貝はやや硬いが甘味があり、カニも食ったことがないくらい濃厚で美味だった。
何も喋らず一気に食べようとしたら、じいさんから
「もういい それ以上食うな
」
とストップがかかった。
じいさんは一口食べてからお行儀も悪く手掴みにしてカニの甲羅を貪った。
満面の笑みで「これは旨いよ~」と満足げだ。
恨めしそうな顔で見ていたら
「お前も食べなさい
」とお許しが出た。
それから男二人、黙々とカニと貝を食った。
すっかり平らげてから話をしたが、じいさんはどうもこのカニを知っていたらしい。
ガザミと違い河口の汽水域に生息するノコギリガザミだと言う。
ただ色も形も少し違うし、こんな巨大なものは見たことがなかったのだ。
味は濃厚で重いという表現がピッタリ。
ガザミをさらに美味しくした芳醇な味で、それ以来このカニが大好物になった。
貝の名は後でわかったが「トウカムリ」だった。
まあ食えない貝はないから細かいことは気にしない。
シゲさんは「首が繋がった・・」と撫で下ろしていた。
玉がデカイ割には肝っ玉はそうでもないようだ。