台風はわずかに逸れていった。間際まで直撃の恐れはあったが海上を進み暴風圏は免れた。強風圏には入ったが暴風圏と強風圏では天国と地獄、風の音もまるで違う。野人は風を肌で感じれば風力が瞬時にわかる。しばらくすれば平均風力と瞬間最大風力もはじき出せる。風力計などは使ったことがない。尾鷲では市民のほとんどが避難するほど記録的な大雨になった。雨雲を運ぶ風向きの正面に高い山があれば集中豪雨になる。それほど離れていなくても平地と山の麓では雨量は何十倍も違う。豪雨の被害は土砂崩れと川の氾濫だが、野人のマリーナは人口の浮島になっている。マリーナ、レストガーデン、グラウンドなど敷地面積は「8千坪」と広いが、周囲は汽水域で水はけは良いから雨の被害の心配はない。過去、直撃台風でレストガーデンの大テントが飛び、それが電線に絡み、電柱が二本倒壊したことがある。テーブルやイスは造船所の廃材の重い木で制作したから飛ぶ事はない。バーベキュー台も余った側溝で出来ているから頑丈だ。今日は朝から快晴だ。台風対策の復旧には丸一日かかるだろう。まだこれからが台風の本番だ。あれがいないとどれだけ嬉しい事か・・・野人の天敵みたいなものだ。付き合いは何十年にもなるから嫌になるほど知り尽くした。いまだにわからないのは気まぐれな進路だけだ。台湾へ抜けて偏西風に乗り日本海を進むと思ったらこうして太平洋に舞い戻って来るのだから。東シナ海では周囲二十七キロしかない諏訪瀬島を時間をかけて一周した記録もある。いったいあいつは何を考えているのだろう、脳味噌もないのに・・・