朝のテレビのニュースでずっこけた。古い知人の船長が海上保安部に「海洋汚染防止法」違反で検挙されたのだ。もう高齢で、昔から人望の厚い人柄で検挙されるようなことをしでかす男でもないのだ。海水混じりの廃油180リットルを海に流した容疑だと言う。詳しい報道はなかったが、野人には実情が手に取るようにわかった。いつものように「ビルジポンプ」のスイッチを押しただけだ。すべての船のスクリューのシャフトは水冷で、必ず外から海水が少し流れ込むようにパッキンを調整している。「スタンチューブ」と言う部分だ。そうしないと摩擦で焼きついてしまうのだ。走行中は「チョロチョロチョロ」停船中は「ポタ・・ポタ」で、常に機関室に海水が溜まるようになっている。長期動かさない時はパッキンを完全に締め付けて水を止めるが、動かす時には水滴の量を調整する。溜まるのは海水だからそのままビルジポンプで船外に排出する。船長は常に注意を払わなければ、パッキンがすり減ったり壊れたりすると機関室が海水に浸かってしまうのだ。野人も何度か発電機やエンジンを海水に浸したことがあるくらいトラブルが多い。エンジンの冷却水とプロペラシャフトの冷却水、船は常に船内に海水を取り込み、沈没と背中合わせなのだ。水洗トイレの水と同じ原理で、ある程度海水が溜まると自動的に排水ポンプが作動して船外へ排出する装置もあるが、安全なようで危険だ。機械はアテにはならない。
船長はいつものように溜まった海水を排出したが機関室の中の異変に気付かなかった。たまにあることだが、機関のエンジンオイルが完全に漏れて下に溜まっていたのだ。それが海水と共に排出してしまった。気が付かなかったのは夜間だったからだろう。港は大騒動になったに違いない。故意に流すはずもない。場所は海上保安庁のビルの前で、巡視船も近くに停泊しているからすぐにわかってしまう。面倒でも機関室の中を確認すべきだった。
野人も東シナ海で海賊船長と呼ばれた26歳の時に複数の違法行為で検挙されたことがある。その時は正義感と言うか、若気の至りでひどかった。保安庁舎での取調べ中に複数相手に大暴れしたのだ。そしてテレビ、ラジオ、新聞で報道され実名も社名も出たが、その話はまた「連載 東シナ海流」に出てくる。