浜松から社長であるじいさんが来る前に、一足先にやってきた男がいる。
ヤマハ本社の社員なのだが海賊ダイバーで、無鉄砲な男で有名だった。
親の代からじいさんとは交流があり、たまに遠州灘でヒラメを突いてきてはじいさんに食わせているらしい。
何しろ特技は「密漁」なのだ。まるで森の石松みたいな男だった。年齢は中目所長と同じで、旧知の間らしく、「やい、中目!テメエなあ~」と呼び捨てにしていた。
所長も彼にはひどい目に遭っているらしく苦手らしい。
さっそく昼から坂内さんと一緒に彼も船に乗せて海へ魚類の調査へ出た。
次々と場所を移動、夕暮れが迫り最後に彼が潜った。
しかしこれがまたなかなか上がって来ないのだ。
自分と同じように海中で息を止める海賊だから空気は通常の倍はもたせる。
暗くなれば吐く息の「泡」が発見出来ず、収容困難で大変な事になる。
何とか泡を見つけて海上で待機していたがタイムリミットになっても上がって来ない。
帰港はリーフ岩の狭い水路を通らなければならず、暗いと危険なのだ。
困った挙句、呼びに行くことにした。
水深は20mから一気に40mに落ち込んでいる。おそらく崖にへばりついて貝か何かを採っているのだろう。はた迷惑な男だ。
白いブリーフ一枚の裸で飛び込み、素潜りで泡をたどって一気に海底へ向かった。
案の定、水深20mの崖の淵にカエルみたいに張り付いてナイフでガリガリやっている。
マスクを外しパンツの後ろに挿し込み、彼の背部に音もなく忍び寄った。
そして彼の肩に手を乗せた・・・・
彼が振り向いてから・・無表情のままバチ!っと目を見開いた。
その瞬間彼はあわてて空気をガバガバ吐き出し、逃げようとしていた。
タンクを掴んで振り向かせ、指で浮上の合図を促した。
苦しくなったのでそれから一気に浮上した。
船上では彼の文句のオンステージだった。
「そりゃもうビックリこいただあ~
青白い顔が目の前に・・・」
無理もない。まさか20mの海底で後ろから。
しかもタンクもマスクもない裸の男に肩に手を乗せられたら・・・あなたならどうする?
彼にはまあ良い薬だ。この話は話題の乏しい部落中に広まり、焼酎を飲みながら笑いのネタになった。
彼はそれまで何度かじいさんと共に島に来て、やりたい放題、言いたい放題だったから、余計に可笑しかったのだろう。
「参ったでや~!」と独特の遠州弁で笑いながら野人の「罪」を許してくれた。案外太っ腹な男なのだ。彼にとって一生の思い出になるだろう。
また一つ、思いでと笑いのネタを皆さんに提供した。笑いなくしてこの厳しい島ではやって行けないのだ。