東シナ海流10 上司と靴下 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

朝、目覚めると肘や拳が痛い。

夕べ何かしでかしたような気もするがはっきりしない。

隣のベッドの池ちゃんが、「おい、中目所長が呼んでいる、夕べは参ったぞ」と言う。

中目所長は読んで字のごとく、そのデカイ目に特徴がある。

温厚な人で、部落や県、建設会社との折衝が主な仕事だ。

別名「人間、中目」という愛称で呼ばれていた。


事務所へ行くと、その所長がデカイ目をさらに大きくして真っ赤な顔して怒っている。

「お前みたいな奴はいらないよ!今すぐ本社へ帰れ!」

何の事かわからず寝ぼけ眼でいると

「夕べ俺達に何したかわかっとるのか!」と怒鳴る。

「何かあったんですか?」と聞くと、「何かもへったくれもない、俺はもう少しで殺さるとこだったぞ」と憤慨する。

「俺だけじゃない、全員ひどい目にあった!」。

「夕べの事をよく思い出してみろ!」というから、記憶をたどってみたがまだ眠い。


夕べは部落で漁祭りがあった。

よくわからないが、要は男達が集まり宴会が始まった。

島へ来てから初めての席で、知らない顔ぶれも多かった。

隣に所長、反対側に池ちゃんが座り、周りを流れてきたヒッピーなどが取り巻いていた。

だんだん彼等の攻撃が激しくなり言葉も荒っぽくなってきた。

いくら無礼講とはいえ限度がある。

所長と池ちゃんはトラブルを避けて相手にしない。


まだシラフだがたまりかねて立ち上がろうとした。

隣で所長と池ちゃんが必死になって両膝を押さえつけてきた、その雰囲気を察してヒッピーの攻撃はトーンダウンした。

楽しい宴席が気まずい。

あまり酒は強くないので、島に来た時から一杯程度で遠慮していたが奴らはしつこく勧めてくる。

断ると、「連帯感に欠ける」とかまた難癖をつけだした。

腹は立つが生まれて初めて焼酎をすすめられるままにガバガバ飲んでしまった。


それから所長が、一件用事があるからと2人で部落の家を訪ね、こちらは車の中で待っていた。

飲酒運転だが道路はヤマハが作ったので公道ではない。島に公道はないのだ。

急に睡魔が襲ってきたところまでは覚えているがあとはおぼろげだ。

断片的に記憶がつながってきた。

「こりゃまずい・・・ここは頬かむりを決め込もう」と思った。

あくまでトボけると、所長が現場査察官みたいな表情で説明してくれた。


話はこうだ。

道路から大声がするので皆で外に出てみるとお前が雄叫びを上げながらジープに肘打ちや膝蹴り、果てはボンネットに飛び乗って破壊していた。

結果、鉄板の分厚いジープはボコボコに波打ち、悲惨な姿になってしまった。

部落中集まってきたが、物騒なので遠巻きにして見ていた。

とにかく娯楽施設がないので、結構面白かったらしい。

スキをみて大勢で取り押さえ、ジープに監禁、飛行場まで護送した。


それからが大変で、ジープから降ろす時に暴れて全員被害を被った。

殴られ、池ちゃんは眼鏡を飛ばされた。

腫れ物にさわるように事務所に搬入、所長が部屋のベッドメイクをして出てくると、目は閉じているのにいきなり回し蹴りが飛んで来た。

事務所の2段ベッドに当たり、柱がへし折れた。


「もうすこしで俺の首も柱と同じ運命だった!」と強調する。


さらに部屋の前まで来ると、前も見ていないのにいきなり出た正拳突きで頑丈なドアに穴が空いた。

化け物にさわるようにベッドに寝かせ、そっと出ようとした途端、首根っこを掴まれ


「靴下・・脱がさんかい!」


・・・と言われ、もう怖くてハイ!ハイ!と、言いなりになるしかなかったそうだ。


そこまで話すとまた怒り出した。


「何で所長の俺が、新入社員のお前の靴下脱がしてやらねばならんのだ!」


そして


「ジープもベッドもドアも弁償しろ!とにかくお前の顔など見たくもないよ」


・・と吐き捨てた。


やがて怒りもおさまり、哀願するような声で


「頼むからゴジラみたいに暴れんといてくれよ~」


所長の悲劇があまりにも可哀想になり素直に謝った。

「人間中目」は本当に優しくて許してくれた。

最後に


「何で・・味方の俺等がこんな目にあわにゃならんのよ~」


・・とうな垂れていた。

その日の内に諸先輩方にも謝り、部落の人達や、建設会社の人達にもお詫びして回った。


それからというもの島では、スタッフも含めて人から焼酎を勧められることが一切なくなった。

ただ一人、うまく立ち回り、被害を受けなかった坂内さんだけが喜んでいた。


「これで用心棒の凶暴性と破壊力が証明出来た、何しろ敵味方の区別なく粉砕しちゃうんだもんなあ」

と・・過激派ヒッピーのけん制になったことをほくそえんでいた。

余程ヒッピー対策に神経をすり減らしていたに違いない。


ベッドには接木を当て、ドアにフタをし、鉄板が波打ったジープはそのまま使うことにした。ソフトハンマーでたたいても元にもどらないし。

1日中すっきりとして二日酔いはしていないみたいだ。


今日も飛行場から眺める海原はどこまでも青く壮快な気分だ。