東シナ海流4 サラリーマン一年生 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

4月から本社研修が始まった。

あの中で採用されたのはもう一人、水産出身で釣りキチガイの富山だった。

映画「燃えよ!ドラゴン」のブルースリーにかぶれ、宿舎に帰ってからも、お岩さんようにダラリとした手で猫足立ち、「ホチョー!」と奇声を発しながらやたら絡んでくる。

これはまともに相手していたらこちらまでおかしくなりそうで適当に相手をしてやった。


彼もやはり社長室でギターを弾いた、いや、正確に言えば弾いてない。

履歴書の特技は釣りとフラメンコギター。

彼もギターを選ばされ、迷わずフラメンコギターを選んだ。

後で聞いた話だが、他にもエレクトーンやピアノなど趣味の欄に書いたのはたくさんいた。

しかし勧められても誰も謙遜して弾こうとせず、恥ずかしくもなくやったのは2人だけだった。


部屋の外で待機中、ピーン、ポロンと途切れた音が時々聞こえてくる。それが随分長い。

しばらくしてフラメンコ独特の音色がジャンジャカジャーン!始まったと思ったら5秒で終わった。

出て来た富山が言った言葉は「音が狂っとる」だった。

こちらはそんなこと気にもせず弾いたが、彼は楽譜が読めないわりに音階にうるさい。

しつこく音合わせをして弾き始めた途端、ジイさんに「君、もういいよ」と言われたらしい。笑いを噛み殺すのに苦労した。

あまりの調律の長さにジイさんしびれを切らしたのだ。

富山も言うことは細かいがなかなかいい根性している。


新入社員は全部で60人、毎年大卒を200人採用していたらしいが、オイルショックで今年は少なかったとの事。

6000人受けて、採用は60人、競争率100倍の難関がどうのと言っていたがこちらにはあまり関係ないようだ。

席を見渡すと青白い顔したのがうようよいる。

席は、文系、理系と半分に分かれていた。

しかし真中の列だけが異質の風貌をしている。色も黒く体もゴツイ。

船舶工学は物理数学で理系だがどうもおかしい。


自己紹介が始まり、奴らは喋り方までこっちと違って上品だった。

隣が一橋大、反対側が京大、斜めに至っては東大修士だった。

富山はもともとスポーツは得意でなく、華奢でボッチャン刈りだから違和感はなかった。

スキーと卓球の国内トップ選手などもいる。つまり我らは番外組だった。

昔から色が黒く目立ってしょうがない。鏡を見ても少し目つきが悪いことぐらい自分でもわかる。


番外組の中でも、海関係の富山と二人だけが社長室での面接だった。

どうせ言い出しっぺはあの魚好きのジイさんに決まっている。

研修は退屈でしょうがなかった。

一つだけ恥ずかしかったことは、経理課長の持ち時間にそろばんをやらされた。

そろばんなど小学校以来やったこともない。思い出しながらいくらやっても合わない

課長がしばらく隣で見ていたが・・


「君、そろばんは逆からはじくものだよ」


その一言で爆笑が起こった。


休憩時間に青白いのが話しかけてきた。

胸のポケットからチラリと出したハンカチで口元を拭き「君はどちらのご出身ですか?」・・・生まれてこのかたハンカチなど使った事なく、思わずどもりそうで返事が出来なかった。


1ヶ月近い研修も終わって配属が決まった。

富山と同じ輸送課で、彼は課長席の前、こちらは後ろのほうだった。

ヤマハは世界各国に楽器の他、スポーツ用品などを輸出している。

オートバイとボートはヤマハ発動機が手掛けている。

毎日女の子が隣に密着、手とり足とり教えてくれて、お茶の時間に、昼休みのバレーボール、何とも気が抜ける。


ここで1年間じっくりとヤマハスピリッツをとの訓示に

「バカバカしくてこんなことやっとられん」

・・と課長に直談判したら

「君が社長に直接言え」

・・と、のたまうからそうすることにした。


ウップンが溜り、本社内にある流派の違う空手部道場に行って大暴れ、一日で「明日から来ないでくれ」と引導を渡されてしまった。

アルバイトも入れてこれでクビは4回目だ。

荒っぽいマグロ水揚げ作業もチョコレート工場も軌道を外しクビになった。

いずれはヤマハもそうなるだろうが仕方ない。


61日付けで辞令が出る。

「諏訪瀬島特務員を命ず」と書いてある。

とにかく鹿児島空港でセスナが待っているから「乗ればわかる」とジイさんに言われた。これでうっとおしい本社ともおさらばだ。


鹿児島空港に着くと小さな4人乗りのセスナが待っていた。

パイロットの山本さんの顔はプロ野球の広島の4番バッターそっくりで、彼のお兄さんだった。

2人でひたすら海の上を飛ぶこと2時間弱、奇妙な島が見えてきた。

今も噴煙を上げる活火山島だ。

小説にも出てくる獄門島みたいで自分にふさわしいのかも知れない。


断崖絶壁に滑走路が見える。

着陸体制に入った時、野生のヤギの群れが滑走路を横切り、上昇して再度やり直し。

一度目の着陸失敗は下からの強風に煽られて空高くタコみたいに舞い上がった。

なかなか面白そうな島だ。


精神の「まとも」な社員にはとても務まらずに病気になるとだけ聞いている。

ヤマハの小さな私設飛行場で所長と同僚が出迎えてくれた。