「きれいだな~」
フォークを口に咥えたままきれいなイルミネーションにため息が漏れる。
そんな羨ましそうな杏梨の顔を見て雪哉は意外に思う。
あの事件があってから異性と出かける事はまずないのだから、恋人とイルミネーションを見に行くというイベントに嫌悪感を抱いていると思っていたのだ。
この場所・・・家から近い・・・。
ゆきちゃんは行った事があるかな・・・。
もちろん行った事があるよね。
昔から彼女が途切れる事がなくいた雪哉ならばあるはずだと杏梨は考えてしまい顔が曇った。
「見に行こうか」
顔を曇らせた杏梨を見て雪哉は言っていた。
「見に・・・行く・・・?」
何の事か分からなくてポカンと口を開けたまま雪哉を見つめている。
「もちろん、イルミネーションを見にだよ」
「彼女と行かなくていいの?」
杏梨の言葉に雪哉は小さなため息が出た。
「杏梨、行きたくないのか?」
「・・・行きたいっ!行くっ!連れて行って!」
「よろしい じゃあ、隣に行って車を取って来るよ」
「バイクでいいよっ!」
自分のは原付バイクだからひそかに雪哉の大型バイクに憧れていた。
黒のダッフルコートに手編みのマフラー、同じ毛糸の帽子を目深(まぶか)にかぶりヘルメットを装着した。
ちょっときついのは仕方がない。
最後に手袋をはめてバイクにまたがっている雪哉の腰に腕を回す。
落ちないようにゆきちゃんの革のライダーズジャケットの上からぎゅっと手を組み合わせた。
あっという間に先ほどテレビで放送されていたイルミネーションの場所へ着いた。
雪哉はバイクを停めるとまだ遠くに見えるイルミネーションに見惚れている杏梨に手を差し出した。
素直に手を差し出すとぎゅっと握られて杏梨の胸はトクンと高鳴った。
寒いはずなのに頬が火照って熱い気がした。
「帽子が曲がっている」
空いている手でヘルメットを脱いだ時にずれてしまった毛糸の帽子の位置を直してくれる。
「ありがと」
少し歩くとそこは一面、ブルーのイルミネーションのシャワー。
「きれーい」
その声が大きかったせいで周りのカップルの注意を引いてしまう。
(ねえ、見て?男同士で手を繋いでいるわ)
(じろじろ見るなよ)
(いいじゃない すごく堂々としているのね 今流行のBLってやつかしら)
近くに居たカップルの話が聞こえてくる。
その会話はすぐに自分たちの事だと杏梨は分かった。
急いで雪哉の手から手を引き抜く。
「どうした?」
ゆきちゃんにはあの人たちの会話が耳に入らなかったんだ。
そう思った時、雪哉が微笑んだ。
「お前はどんな格好をしていても女だ 周りの事を気にする必要はない」
そう言ってもう一度杏梨の手を握った。
「ゆきちゃん・・・」
杏梨はコクッと頷いた。
そして何事もなかったかのようにイルミネーションを鑑賞し始めた。
一つ一つのイルミネーションのオブジェを見ながら驚いたり喜んだりしている杏梨を雪哉は見ていた。
お前が女に戻る日はいつ来るのだろうか。
そう長くない事を願う。
先日、父親の海外赴任が決まった。
付き合っている女性、つまり杏梨の母親とこの機会に結婚したいと告げられた。
2人が結婚すれば俺たちは義兄妹となる。
そうなればお前は俺の事を兄として接するのだろうか。
将来好きな男が出来て俺から離れてしまうのだろうか。
「くしゅん!」
杏梨の大きなくしゃみに我に返る。
「寒いんだろう 帰ろう」
腕をかかげ腕時計を見るとすでに12時を回っている。
「えーっ もう?」
「素直に帰ればプレゼントをあげよう」
「ほんとっ!?」
「あぁ」
杏梨へのクリスマスプレゼントはツリーの下に置いてきていた。
* * * * * *
家に戻った杏梨はダイヤのハート型のプチネックレスに目が丸くなった。
箱は宝石店で某有名なブランド。
雪哉は杏梨の反応に満足げに見ていた。
女の子らしいプレゼントをするのは事件以来だ。
去年は先ほど来ていた黒のダッフルコート。
おととしは男物のダイバーズウォッチ。
「外見は男の子みたいでも杏梨は女らしいよ」
「ありがとう ゆきちゃん」
ネックレスを手にして杏梨はうれしそうだった。
「メリークリスマス 杏梨」
杏梨の頭に手を置きポンポンと優しく触れる。
「ゆきちゃん メリークリスマス」
雪哉はマンションへ帰ると杏梨からもらった革の手袋を大事に洋服ダンスの引き出しにしまった。
終わり