橙、そんな巽と母親の話を、少し、ドキドキしながら…。
知美、
「なんだか…気の毒になって、病室…お見舞いに行ってきた。」
巽、
「……。」
「寿美香さん…。かあさんに、あの時は本当にごめんなさいって…。あれからウチは、ガラリと変わってしまったって…。」
添田とは、かつて、巽が将来を約束した女性の事である。
名前を添田奈美(そえだなみ)。その父親が添田健斗(そえだけんと)。
現在、その添田奈美は、2度の離婚を経験し、3度目の結婚。子供はそれぞれ3人。
けれども現在の夫が他所に女性を作り、浮気をしている様子。
しかも、内情としては、DVまがいでもあるという話。
仕事はしているのだが、数多くの負債を抱えている。
娘の事があまりに可愛く育て過ぎ、好き放題の事をやらせてきた父親の健斗。
その父親を奈美も頼りまくり、心配事は母親よりも父親。
その挙句、父親は娘たち夫婦には妻の言う事も聞かずに甘やかせて、
添田家も奈美の夫のせいで負債を抱え込む結果に。
疲れ果てた健斗が、その過労で遂に倒れたという事である。
淡々と話して聞かせる知美。
「いい加減にしてくれ。」
と、巽。
それでも、口から次々に出る言葉に、
「かあさん。木葉さん。いるんだけど…。」
橙、巽の母親の話に、何も言葉を出すことも出来ず…。
ようやくの巽の声で、
「あ…、あの…。私…、失礼…します。お邪魔しました。」
そんな女性に、知美、笑顔で、
「あら…、ごめんなさい。つい私…。あっ。もう…面会時間も…。お気を付けて。おやすみなさい。」
橙、慌てて、
「お邪魔しました。失礼します。」
ドアに向かい、静かにドアを閉める橙。
背中の後ろで閉まったドアノブを握りながら、
「ふぅ……。」
そして、自然に頭をコクリと…前に、
「参った~~。」
見る見るうちに瞳を濡らす涙。そして、ゆっくりと歩き出しながら、
「わたし…。無理だよ…。巽~~~。わたし…、無理だよ。」
病室では、まだ口から添田家の事が絶えない知美。
巽、
「かあさん!!!」
けれども、そんな知美でも、しっかりと、涙目で、
「でもさ、言わせてくれてもいいんじゃない。母さんや父さんだって、どのくらい、頭に来たか、あの時。あんたを馬鹿にした人たちだよ。手の裏返すように。」
奈美の体に子供が出来た時点で、巽との事はなかったことにしてくれと、
一方的に破綻を告げてきた添田家であった。
「どんだけ、悔しかったか。そりゃ、奈美さんの結婚した人は、代議士の息子さんだよ。しっかりと出来ちゃった婚。けどさ。人の幸せって、そんなもん…???冗談じゃないよ。結局、夫婦喧嘩が絶えず、生まれた子供だって、認知すりゃされなかった。」
怒りが収まらない知美。
巽も最初は怒ってはいたが、次第に、苦笑いをして、
「かあ…さん…。やれやれ…。」
「しかも…、あんたが…今…、こんな…。脳梗塞…だなんて…。かあさん…。」
今度は鼻をハンカチで押さえながら…。
「あんたには…しあわせになって…もらい…。」
「わ~~かった、わ~~かった…。」
数秒の沈黙。鼻からハンカチを外して、
「巽っ!!!あんた、あの木葉さん、好きなのかい。」
巽、いきなりの母親の声に、
「えっ…???」

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