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【スピリチュアル三部作・その①】あの日、見知らぬ住職に呼び止められてから、すべてが始まった。 | 開運コンサルタント 佳山知未のブログ

 

 

あの日、山寺で住職に告げられた言葉は、旅から戻ったあとも彼女の中から消えることはありませんでした。

 

「あなたの第三の目は、開きかけている」
「自分の直感を信じきること。そして、その直感通りに行動すること」

 

日常は、何事もなかったかのように進んでいきます。


朝になれば目を覚まし、身支度を整え、満員電車に揺られて会社へ向かう。


メールを返し、会議に出席し、資料を整え、上司や同僚と何気ない会話を交わす。


昼休みには同僚とランチをし、夕方になれば仕事を終え、帰宅する。

 

外から見れば、彼女の毎日は相変わらず整っていました。


きちんと働き、きちんと笑い、きちんと人と関わる。


以前と変わらない、安定した日々。

 

けれど、その「変わらなさ」の中にいるほど、彼女は自分の内側だけが少しずつ変わり始めていることを感じていました。

 

ふとした瞬間に、あの住職の声が蘇るのです。

 

「第三の目が開きかけている」
「直感を信じなさい」

 

パソコンの画面を見つめているときも。
駅のホームで電車を待っているときも。
夜、部屋の明かりを落として一人になったときも。

 

まるで誰かが、彼女の意識の奥をそっと叩いているようでした。

 

――本当に、このままでいいのか。
――本当に、自分が進む道はそこなのか。

 

そんな問いが、言葉にならないまま胸の奥に漂い続けていました。

 

もちろん彼女は、その違和感を打ち消そうともしました。


考えすぎだ、少し疲れているだけだ、と。


人生には、こういう時期もある。


立ち止まらず、いつも通りやっていれば、そのうち気にならなくなるだろう。

 

そう思っていたのです。

 

けれど、運命というものは、ときにこちらの覚悟が整う前に、大きな扉を目の前へ運んできます。

 

ある日、彼から「大事な話がある」と連絡が来ました。

 

落ち着いた声でした。


でもどこか、いつもより少しだけ緊張しているようにも聞こえました。

 

彼女はその週末、彼に誘われて都内の一流ホテルへ向かいました。


高層階にあるレストラン。


大きな窓の向こうには、宝石をちりばめたような夜景が広がっていました。

 

グラスの中で揺れる光。
静かに流れる音楽。
洗練された空間。


誰もが「特別な夜」だと感じるような、完璧に美しい場所でした。

 

彼はいつも通り穏やかで、上品で、言葉遣いも丁寧でした。


仕事もできて、将来性もあって、人としても誠実。


彼女がこれまで交際してきた中でも、誰から見ても「申し分のない人」でした。

 

食事が進み、デザートのタイミングが近づいたころ、彼は静かに背筋を伸ばしました。


そして彼女の目を真っ直ぐに見つめて、こう言ったのです。

 

「実は、辞令が出たんだ。ドイツ支社への転勤が決まった」

 

彼女は驚きました。


けれど同時に、「やっぱり」と思う気持ちもありました。


彼なら、いつか大きなチャンスをつかむだろう。


そう思えるだけの実力と信頼を、彼は持っていたからです。

 

「すごい……おめでとう」

 

彼女がそう言うと、彼は小さく微笑みました。


けれど、その表情の奥には、まだ続きがあることが見えました。

 

次の瞬間、彼はジャケットの内ポケットから、小さな一流ブランドの箱を取り出しました。

 

その箱を見た瞬間、彼女の呼吸が一瞬止まりました。

 

彼がその箱をゆっくり開くと、中には、まばゆいほど美しいダイヤモンドのリングが入っていました。

 

ハリー・ウィンストン――。


女性なら一度は憧れる、特別な名前。


しかも、それは小ぶりで可憐なものではなく、誰が見ても息をのむような、1カラットの存在感あるダイヤモンドでした。

 

夜景の光を受けて、その石は静かに、けれど圧倒的な輝きを放っていました。

 

そして彼は、まるで映画のワンシーンのように自然な動作で、彼女にこう言ったのです。

 

「一緒に来てほしい」
「僕と結婚して、ドイツについてきてほしい」

 

その瞬間、時間が止まったように感じました。

 

周囲の音が遠のき、レストランのざわめきも、グラスの触れ合う音も、すべて薄い膜の向こう側へ消えていくようでした。

 

彼女は、ただ目の前のリングを見つめていました。

 

こんな場面を、彼女は何度も想像したことがありました。


素敵な男性からのプロポーズ。


美しい夜景。
一流ホテルのレストラン。
そして、憧れのハリー・ウィンストン。

 

たぶん、少し前の自分なら、胸がいっぱいになっていたはずでした。


涙ぐんで、何度もうなずいて、幸せでいっぱいになっていたはずでした。

 

だってこれは、多くの人が夢見るような瞬間だから。


「おめでとう」と祝福され、
「羨ましい」と言われ、
「完璧な幸せ」と呼ばれるような場面だから。

 

なのに――

 

彼女の胸の中には、思っていたような歓びが湧いてきませんでした。

 

嬉しくない、わけではない。


彼が自分を選んでくれたことはありがたい。


こんなに誠実に未来を差し出してくれる人がいることも、十分すぎるほど幸せなことだと頭ではわかっていました。

 

それなのに。

心のどこかが、静まり返っていたのです。

 

それどころか、胸の奥深くで、またあの感覚が走りました。

ちくり。

 

小さく、でも確かに。


あのとき未来を思い描いたときに感じた、あの痛みに似た感覚。

 

どうして……?

 

彼女は内心、激しく戸惑いました。

 

どうして私は、こんなにも嬉しいはずの瞬間に、心から喜べないのだろう。


どうして私は、目の前に差し出されたこの完璧な幸せを、まっすぐ抱きしめられないのだろう。

 

彼は、何も悪くない。


むしろ、非の打ちどころがないほど素敵な人です。

 

プロポーズの場所も、言葉も、タイミングも、指輪も、すべてが完璧でした。


誰もが憧れるような、申し分のないプロポーズでした。

 

それなのに、彼女の心の中で広がっていたのは、幸福感よりも、説明のつかない静けさでした。

 

まるで、自分の魂だけが、その場で黙り込んでしまったかのように。

 

「……どうしたの?」

彼が少し不安そうに尋ねました。

 

彼女ははっとして、慌てて微笑みました。


今ここで、この違和感をそのまま顔に出してはいけない。


そんな思いが咄嗟に働いたのです。

 

「ううん……急で、ちょっとびっくりして……」

そう答えるのが精一杯でした。

 

彼は優しく微笑みながら、続けました。

 

「急に驚かせてごめん。でも、本気なんだ。

これからの人生を、一緒に歩いていきたいと思ってる。

ドイツでの生活もきっと大変なことはあると思うけど、君となら乗り越えていけると思う」

 

その言葉は、どこまでも誠実でした。


まっすぐで、真面目で、温かくて、何一つ疑う余地のない言葉でした。

 

けれど、その温かな言葉を聞けば聞くほど、彼女の中で別の声が目を覚ましていきました。

 

――本当に、それがあなたの望む未来なの?


――その道を選んだとき、あなたの心は本当に満たされるの?


――その指輪の輝きは、あなたの本心まで照らしているの?

 

その瞬間、彼女の脳裏に、あの山寺の住職の顔が鮮明によみがえりました。

 

「第三の目が開きかけている」
「自分の直感を信じきることだ。そして、その直感通りに行動すること」

 

彼女は息をのみました。

 

まるで、あの言葉はこの日のためにあったのではないか――


そう思えるほど、住職の声は鮮やかに胸の内へ響いてきたのです。

 

今、試されているのかもしれない。

 

自分は本当に、直感を信じられるのか。


周囲が羨む“正しい幸せ”と、自分の魂が求めるものが違っていたとしたら、私は何を選ぶのか。

 

彼女の視線は、テーブルの上のリングに落ちました。


そのダイヤモンドは、恐ろしいほど美しく輝いていました。

 

けれど、その輝きの奥に、彼女はなぜか“問い”を見たのです。

 

これは祝福なのか。


それとも、人生の分岐点に差し出された試金石なのか。

 

彼女はまだ答えを口にできませんでした。


「はい」と言えば、多くの人が祝福する未来が始まる。


「いいえ」と言えば、何かを大きく壊してしまうかもしれない。

 

でも、はっきりしていることが一つだけありました。

 

もう彼女は、以前のように


「周囲が納得するから」
「誰が見ても幸せそうだから」


そんな理由だけで人生を選べる場所にはいなかったのです。

 

第三の目が開きかけているというのなら――
今こそ、自分の本心から目をそらしてはいけない。

 

けれど、本心とは何なのか。


直感とは何を告げているのか。


それを見極める勇気が、今の彼女にあるのか。

 

きらめく夜景の中で、彼女は人生で初めて、
「誰もが羨む幸せ」と「自分だけが知っている違和感」の間に立たされていました。

 

そしてその夜、彼女はまだ知らなかったのです。

 

このプロポーズの返事をきっかけに、
彼女の人生が、もう二度と “元の場所” には戻れなくなることを。

 

さらに、その直後――


彼女の前に、もうひとつの“ありえない出来事”が姿を現すことを。

 

続く。

 

 

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