向精神薬は服薬し続けることで効果が減弱するのか?
結論から先に言えば、向精神薬のタイプにより長期服薬により減弱するものとそうでないものがある。
精神科、心療内科で処方されることはないが、例えばアルコールはヒトを酩酊させ、脳に作用する薬と言える。アルコールは長期連用で強くなるように、精神への作用は次第に減弱するように見える。アルコールをひとつの向精神薬とみなせば、次第に効果が減弱する薬と言える。
また、脳内でアルコールが作用する部分に近いベンゾジアゼピン系の抗不安薬、眠剤は次第に効果が薄れ、必要な用量が増えていく傾向がある。ベンゾジアゼピンは長期服用で効果が減弱するタイプの薬である。
抗精神病薬は、まず定型抗精神病薬について。ここで言う定型抗精神病薬とは、ハロペリドール、チミペロン、コントミン、レボトミンなどの歴史が古い抗精神病薬である。
定型抗精神病薬は長期服用することで当初見られた副作用が次第に薄れる傾向はある。例えば眠さなどは、服薬し続けるうちに次第に軽くなる。しかし臨床的に長期連用したからと言って、次第に効果が薄らぐようには見えない。治療後、当初は少ない用量で治療できていたのに、時間が経ちその数倍必要になる人は病状そのものの進行によることが多い。
特にハロペリドール、チミペロンについては筋注薬は時間が経っても、1アンプルないし2アンプルの安定した効果を発揮する。
コントミンやレボトミンなどのフェノチアジン系の定型抗精神病薬は、ブチロフェノン系に比べ作用するレセプターに広がりがある。例えばフェノチアジン系の抗ヒスタミン作用は、ここだけ見れば、長期服用でやや効果が薄れていくように思われる。それは時間が経つと鎮静的な効果が薄れて服用しやすくなるからである。
コントミン、レボトミンはさまざまなレセプターへの作用のトータルが抗精神病作用なので、一部のレセプターへの効果が減弱したとしても総合的にはそれほど減弱するようには見えない。減弱したとしてもたいした減弱とはみなせないのである。
しかし特殊例は注意すべきだと思う。昔、レボトミン2000㎎などの驚異的と言える?処方を目撃することがあった。レボトミン2000㎎でも普通に歩ける理由は、その人の抗精神病薬に対するある種の生体防御反応が起こっているからであろう。レセプターの数やその立体構造が変容しているからこそ、その用量に耐えられる。これは、次第に効果が薄れるとは言えないと思う。
非定型抗精神病薬は、レセプターへの作用に広がりがあるオランザピン、クエチアピン、クロザピンと、レセプターに比較的ピンポイントに効果を及ぼすアリピプラゾール、ブレクスプラゾールのようなタイプに分けて考えた方が良さそうである。
オランザピンのようなレセプターに広く作用を及ぼすタイプは、一部に作用が減弱するものがあってもトータルではそこまで減弱しているようには見えない。副作用に慣れる傾向があるのは、定型抗精神病薬のコントミンと同様である。なぜ一部の作用が弱まるのに、トータルでは抗精神病作用が維持されるのかはよくわからない。
アリピプラゾールはピンポイントタイプでもアンタゴニストとアゴニストの双方の作用を持つ。このうちアンタゴニストは遮断的な作用で、一般的な定型抗精神病薬の作用に似ている。この作用は安定的で時間が経っても減弱するように見えない。
一方、アゴニスト作用は特に少量でその作用が顕在化するが、これは時間が経ち作用がやや減弱するように見える。非定型抗精神病薬の少量でアゴニストタイプの効果を発揮させる場合、賦活や抗うつ作用を期待することが多いが、この作用は腰折れしやすいのである。また、この作用は増量するとアンタゴニストに変化するため、増量で対応することもできない。
このようなことから、アリピプラゾールやブレクスプラゾールの賦活を目的とした少量コントロールはやや難しい。一旦、効果が減弱した場合、一時、中止し時間をおいて再び処方すると期待する効果が再現する傾向はある。
抗うつ剤のうち旧来のタイプ(トリプタノール、トフラニール、アナフラニールなど)は、長期間服用したために効果が減弱する傾向はない。次第に増える人は、むしろ副作用に慣れたためにその用量を服用できる部分が大きい。かつて古いタイプの抗うつ剤は少量で長期間続けるよりしっかりした用量を継続して服用することが推奨されていた。この傾向は旧来の4環系抗うつ剤やミルタザピンも同様である。
SSRI、SNRIは設定された処方用量の幅が狭く、すぐに上限の処方用量に達する。これらも長期に服用したことで効果が減弱するタイプではない。上限の用量を服薬し続けて病状が悪化したケースは、何らかの他の要因(ストレスなど)の影響の方が大きいと思う。
実際、上限用量のSSRIやSNRIを長期間続けていて、その薬に慣れて効かなくなり、他の薬に変更せざるを得なくなることがほぼない。もし抗うつ剤に慣れることで使えなくなるなら、多くのうつ病の患者さんはやがて服薬する抗うつ剤がなくなってしまうと思う。
抗うつ剤でも本邦未発売のブプロピオンは特殊だと思う。ブプロピオンは長期服薬で腰折れしやすい。これはドパミン神経系に他の神経系とは異なる特殊性があることが推測できる。
一般にパーキンソン病の薬を長期間飲み続けていると、徐々に効果の持続時間が短くなったり、効き方にムラが出たりするようになる。この傾向だが、薬に対する耐性が形成されたと言うより、病気の進行に伴って脳内でドパミンを蓄える力が低下していくことためと言われる。
抗パーキンソン病薬にはウェアリング・オフ(wearing-off)現象と言うものがあり、初期の頃は1回薬を飲むと次の服用までしっかり効果が持続するが、数年経つと薬の効き目が2〜3時間など短くなり、次の服用の前に手足が震えたり、体が動かなくなったりする「オフ」の時間が出現する。
これらはドパミン神経系の特殊性ではないかと思う。この現象は、アリピプラゾールやブレクスプラゾールの少量投与の際にも類似した現象がみられるからである。
抗てんかん薬については一部ベンゾジアゼピン系の薬があり、これらは上記に挙げたように効果が減弱すると思うが、現在の新規抗てんかん薬を含めほとんどの抗てんかん薬は効果が減弱しないと思う。もし抗てんかん薬が、アルコールのようであれば、てんかんの患者さんの長期の治療などできない。
これらのことから、向精神薬を長期に服用していて効果が減弱するものも一部にあるが、ほとんどの薬は安定的に効果が維持されることがわかると思う。