
ジスバルの最初の印象
数か月前に初めてジスバルを処方する機会があった。今日の記事はその時の印象である。
ジスバルは薬価が高いこともあり、相当にフィットしていないと処方し辛い。また効果が高くないと処方する甲斐がないと思う。
その患者さんは、元々精神疾患がなかったが、危うく死亡しかねない全身性疾患を契機に精神症状が悪化し、セロクエル服薬のためにジスキネジアを生じていた(副作用)。
ジスキネジアは重度のものと軽度のものがあるが、車椅子で初診されており重いレベルであった。遅発性ジスキネジアについては、Wikipediaを参照してほしい。
サイトから抜粋。
遅発性ジスキネジアは、反復的な、不随意の、目的のない動作に特徴づけられる。不随意運動のこれらの種類の例をいくつか挙げる。
顔を歪める
舌を突き出す
舌鼓を打つ
唇をすぼませたり
眼の瞬きが早い
手足、指、胴体の早く不随意な運動も生じる可能性がある。いくつかの症例では、脚部に歩行が困難または不可能になるほどの影響がある。
一般に遅発性ジスキネジアは、かなり抗精神病薬を長期連用しないと生じないことが多い。しかし、このケースは比較的短期間に生じており、しかも原因薬がジスキネジアが生じにくいとされているセロクエル(クエチアピン)であった。このような事態はおそらく主治医も予想もしなかっただろうと思う。
このように短期間の服薬でここまで悪化してしまう人は、遺伝的な脆弱性や脳のダメージの既往(頭部外傷や脳血管障害など)も関与していると思われる。
軽い遅発性ジスキネジアであれば、D2レセプターに親和性がないか極めて低い薬に変更すれば次第に改善することが多い。例えばクロザピンなどである。その視点ではセロクエルでも比較的安全性が高いと思われるが、そのセロクエルで生じているのである。
このセロクエルと言うのが曲者で、臨床医の体感でセロクエルを処方したくなるのは錐体外路系の副作用が起こりかねないと思える人たちである。つまり感覚的に副作用が出現しそうに思うからこそセロクエルを処方する。
その結果、セロクエルでかえって稀な錐体外路系副作用に遭遇する印象である。実際、僕の患者さんで僅かなセロクエルで横紋筋融解症が生じたことがある。
今回の人はまさにそのケースだったと言える。
ジスバルは処方後、4日目くらいから効果が出始め、最初に首から下(つまり四肢と体幹)のジスキネジアが目に見えて軽快し始めた。正直、ジスバルの効果に僕はびっくりしたのである。
一方、顔面のジスキネジアはやや軽減しているが症状が残ってしまう印象であった。それでも舌を突き出すなどの大きな症状が軽減してきているので、増量すれば更に良くなるのでは?と思った。この人だけかもしれないが、ジスバルは顔面の症状には体幹や四肢に比し効果が弱いのである。
そこで、ジズバルを1日2カプセルまで増量すると顔面部分のジスキネジアが多少残ったものの、それ以外の症状がほとんど消褪したため治療終了としている。(40日くらいで退院および転院)。
長期的にはジズバルは1カプセルに減らしたり、もしかしたら中止も可能かもしれないが、その後の状態を知らないので不明である。
高齢の女性の顔面の軽度のジスキネジアは、昔セレネースを長期服薬している人に生じることがあった。稀と言うほど珍しいものではなかった。このレベルの人は可能ならセレネースをエビリファイ(アリピプラゾール)くらいに変更し長期に治療しているとほとんど消退することが多い。
アリピプラゾールは完全にD2を遮断しない非定型抗精神病薬であり、本来、安全性が高いが、それでもこのタイプの副作用が生じないわけではない。その理由はD2に関与する抗精神病薬だからである。
遺伝的というべきか体質的に漸弱性のある人は、リーマスどころかデパケンでさえ遅発性ジスキネジアを生じうる。
今回治療した患者さんは、ジズバルで多少は症状が残っているが、本人が全く苦にならないレベルまで回復していた。もしジズバルがなかったら、DBS造設するなどの外科的治療しかなかったと思う。
精神科に限らないが、医療は日々進歩しているので、遅く生まれれば生まれるほど、優れた治療を受けられると言えると思う。
