ある抗精神病薬とアリピプラゾール併用の意味
現在、外来診療では2剤まで抗精神病薬が処方できる。今回はある抗精神病薬に、エビリファイ(アリピプラゾール)併用することにより、どのような薬理作用の変化があるか?といった記事である。
うつ状態への追加療法のような処方量だとエビリファイの影響がわかりにくく結果もばらつくため、ここでは24㎎処方のケースを考える。
エビリファイはD2レセプターに親和性が強いが、部分アゴニストであるため、強いD2遮断作用が生じないと言うイメージがある。従って既にある期間、D2遮断作用を持つ抗精神病薬を服用している状況でエビリファイを併用した場合、従来の抗精神病薬のD2遮断作用を弱める結果になる。エビリファイよりD2親和性が高い薬はロナセンなど特別な薬に限られるため、概ねエビリファイがD2にあった従来薬を押しのけるようである。
例
リスパダール 2㎎
エビリファイ 24㎎
上のようにリスパダール(リスペリドン)にエビリファイ24㎎を追加した際のメリットは振戦などEPS全般が減少することである。(その他、筋強剛、流嚥、突進歩行などの減少)。また、女性ならこの併用処方で無月経が緩和することも多い。おそらく体重増加もリスパダール単剤ほど大きくないと思われる。
デメリットとしては、併用直後にリスパダール2㎎のD2遮断作用が急激に弱まるため、人によれば精神病が悪化する結果になる。リスパダールのようなアンタゴニストではないからである。
リスパダールに比べエビリファイは脳内のD2レセプター以外への作用が狭いため、リスパダールが処方内に残る意味はある。簡略化して言えば、D2以外のレセプターの面倒をリスパダールがみているので、D2がエビリファイ、それ以外をリスパダールが薬効を及ぼすといったイメージである。
すんなりエビリファイの併用が上手くいった場合、一度はエビリファイ単剤でも大丈夫かどうかを確認すべきだ。1剤で十分な治療パフォーマンスであれば、そうすべきなのは当然である。しかし、その際、併用の方が色々な面でメリットが多い人の存在に気付くはずである。
もしエビリファイ24㎎~30㎎単剤では幻覚妄想など症状のまとまりが上手くいかなかったり、表情が硬く、なんとなくギクシャクしたりしたのなら、リスパダールのD2以外のレセプターへの親和性が、その人にとっては有益なのであろう。この際、いわゆる非定型抗精神病薬がいかなる振る舞いをしているか確認できる。
たいていの非定型抗精神病薬は、D2以外のレセプターへの作用の厚みがあることが定型抗精神病薬との大きな相違である。ただし、エビリファイだけ特別でD2親和性が強いのに部分アゴニストであるために、あたかも非定型抗精神病薬のような効果をもたらしている。そのような薬理特性の相違から、リスパダール+エビリファイのような併用処方の有益性が生じているのである。
例
セレネース 6㎎
エビリファイ 24㎎
これも上記リスパダール+エビリファイの併用に似た結果になるが、細かいところで少し違う。メリットはEPSが緩和すること。デメリットは精神病の再燃のリスクである。このようなことから、どのタイミングで、いかなる増量ペースで併用したらリスクが低減できるか見極めるのは重要である。これこそ精神科医の技量の1つだと思う。
リスペリドンとセレネースの大きな相違は、非定型精神病薬と定型抗精神病薬の相違、つまりD2 の遮断によるEPS発生を減少させるメカニズムが薬剤特性にあるかどうかである。基本的に定型抗精神病薬はその薬理作用にEPSを緩和する機序を持たない。セレネースのように古典的抗精神病薬にエビリファイを追加した場合、D2レセプターをエビリファイが占有してしまうために、セレネースを併用する意味がないと思うかもしれないが、日常臨床上はそうとも言えない。どうもセレネースもD2以外のレセプターの作用はあるのである。ただしその多様性がリスパダールほどはないだけである。
30年くらい入院中の統合失調症の患者さんの処方が、セレネース6㎎が主剤だったとしよう。それにエビリファイを24㎎追加した際に、まず振戦の減少が目視できる。会話ができる人であれば、本人が「手の震えが減った」とか「前に早足になるのがなくなった」などの感想を聴くこともある。これはパーキンソン症状の緩和から生じている。またもう1レベル悪い人は細かい会話は難しいとしても、流嚥の減少、転倒の減少、姿勢の悪さ(ジストニア)が改善していることを確認できる。
ここでちょっと謎なのは、表情が優しくなることである。これはいかにも非定型抗精神病薬的な作用である。これはセレネースのD2以外の作用もある程度は関与していると思うが、真の作用は、顔面のジストニア的筋緊張の緩和だと思う。なお、ジストニアは随意筋にしか生じない。ヒトが表情を自分で変えられる以上、顔面にもEPSが起こる。そのようなことから、まだ無治療の初診時の表情の硬さと、抗精神病薬を服用し始めてからの表情の硬さは由来が異なる。抗精神病薬による表情の硬さの一部はEPSが担っているのである。
長期に安全にエビリファイが併用できた場合、薬剤への過敏性の変化(緩和)が生じ、以前よりセレネースの減薬がしやすくなる傾向がある。従って併用直後に減量できなかったとしても悲観するほどではないと思う。
過去ログでは抗精神病薬の併用療法は、コントミン換算的に必ずしも1+1にはなっていないと言う記事がある。今回の記事はその意味をより具体的に記載したものである。
これらは例えるなら、黒と白の絵の具を混ぜて灰色を作るとか、赤と白を混ぜて桃色を作るなど、黒や赤の強い色を弱め柔らかい色に変えているといった感じだと思う。
今回は、一般にはおそらく誤解されていると思うので、特に重い精神病の人たちの症状改善あるいは副作用緩和のための「積極的併用療法」について記載している。