アトピーによる精神病状態 | kyupinの日記 気が向けば更新

アトピーによる精神病状態

彼女はもうずっと以前に治療した患者さんである。うちの病院に来るまでどこにもかかったことはなく、僕が初診だった。うちの病院に来た理由を聞いてみたら、家が近かったからという。以下はカルテを直接参照している。

彼女は出産後アトピー性皮膚炎になったらしい。しかし、最初から精神症状があったわけではなく、出産後数年は何もなかった。子供は既に小学生になっていたし産褥期の精神病とは言えない。

初診時の印象だが、年齢に比して随分若く見える人だなあと思った(重要)。アニオタ風に言えば美少女系である。最初に診た時、会話も十分にできない状態であった。座るように言ってもそうすることすらできず、立ったまま微かに呟いているだけなのである。疎通性がほとんどなく、初診時は亜昏迷状態であった。

これは入院させるしかないと思ったので同伴していた夫にそう勧めた。家では家事どころではなく介助も大変だったらしく、すぐに同意された。簡単に病歴を夫から聞いた。その家族は最近うちの病院の近くに引っ越してきており、それまではかなりかなり遠くに住んでいた。飛行機でも乗り継がないといけない距離である。

厳密には引越しの前からなのだが、半年ほど前から彼女の両前腕にアトピー性の皮疹が出現し急に全身倦怠感に襲われるようになった。酷いきつさで彼女は寝たり起きたりの状態になっていたのである。引越し後もきついと訴えて家事もできず、食欲不振、不眠なども出現するようになった。初診1週間前には、急に立ち上がり、全く会話もできず、座ろうともせず落ち着きがなくなることが頻繁にあったらしい。ここ数日は食事も夫が食べさせていたという。

彼女の病前性格は「神経質、引っ込み思案」という話であった。この性格は非定型精神病的ではない。しかしその後の長期の経過をみると、必ずしもそういう性格とも言えないと思った。彼女を診た時の僕の第一印象は「アトピー疾患による精神病状態」である。おそらく症状性精神病であろう。つまり広い意味の器質性精神病である。(つまり非定型精神病的ということ)

病棟に連れて行き、ベッド上でセレネースとアキネトンをそれぞれ半アンプルずつ混筋注してみた。その時の精神所見(カルテから)

セレネース1/2A 、アキネトン1/2Aを混筋注したところ、魔法が解けたようにはっきりした。

なんらかの原因(たぶんアトピー)による亜昏迷状態なのは間違いなかった。最初はジプレキサ1.25mgほどの少量で治療を開始した。食事が摂れないなどの症状があり一般的な対症療法ならこれくらいが良さそうに見える。このような時、ジプレキサは少なくともドグマチールよりはインパクトがあるはずだ。

ジプレキサ  1.25mg
レンドルミン 0.25mg


普通、症状精神病は元疾患、つまりアトピーを治療するのであるが、この場合はそうとも言えない。なぜなら精神病状態が重すぎるからだ。亜昏迷では生活ができない。一刻も早く精神症状を改善することが重要である。食事すら自分で摂れないのに。

僕は毎日セレネースを筋注するのは避けることにした。そうしても良かったのであるが、筋注してもしばらくすると元に戻ってしまうので、そこまでセレネースが良いとは思えなかった。実はその時の感覚を思い出せない。カルテにもそのことには触れておらず詳細は不明である。

その後、亜昏迷の時間が長く、食事も夫が面会時に介助してやっと食べるといった感じであった。一日中、寝ているのである。ジプレキサはその後少し増量したが、この程度の効果ならアモキサンで治療した方が早いと思った。当時のカルテから。

夫や子供がいると食事を食べるが、その他の時間は疎通性も悪く、今日診た時も亜昏迷であった。あまり会話もできない。放置して見ていると閉眼して寝ている。声かけするとゆっくり開眼はするがうまく喋れない。

入院4日目からの処方
アモキサン  75mg
ジプレキサ  2.5mg
レンドルミン 0.25mg


その数日後のカルテの記事。

看護者によれば、夫がいないとろくに食事を摂らないという。彼女に会うと「ずっと回っていておかしい。めまいがするんですよ。」彼女は、何度も何度も「おかしい。おかしい。」と繰り返した。

彼女の言っていた意味であるが、最初は僕は良く理解していなかった。それ以上のことが彼女には説明できなかったからである。実は彼女のこの言葉は重要な意味を持っており、半年後に突然氷解したのである。この頃からジプレキサはそこまで彼女に合っていないと感じ、ドグマチールに変更している。アモキサンは50mgまで減量し継続。

1週間目くらいの処方
アモキサン  50mg
ドグマチール 100mg
レンドルミン 0.25mg


その後、少しずつ疎通性が回復し、ある程度の会話ができるようになった。当時のカルテの記事。

ご飯は少しは食べられます。めまいが少しします。めまいは入院する前からありました。ふらつきが少しあります。眠剤はいらないです。
少しはっきりしてきた。朝から部屋を出てテレビを観ていることもある。時々、空笑がある。今日から一般病床に移動させる。


入院10日目
○さんが気になって仕方がない。ご飯は食べているけど憂鬱です。何をして良いのかわからない。いろいろ考えてしまいます。何も手につかないし、時間が全然経たない。

この日、セロクエルを追加してみた。当初はセロクエルは悪くはないと思った

当時の処方
アモキサン  50mg
ドグマチール 100mg
セロクエル  50mg


入院2週間目
眠い感じはありますね。体はすごくきついです。立つ時立ちくらみがした。沈み込むような感じはあります。メトリジンを追加する。

その翌日
少しだけ眠い。今日は立ちくらみはしません。
かなりハキハキしてきた。セロクエルは良いが少し多いかもしれない。セロクエルは中止することにした。1泊だけ外泊させる。


外泊から帰棟時のカルテから
外泊はとても良かった。家事も大丈夫だった。口は渇きません。今も少し眠いです。母はリウマチですと言う。
予想以上に外泊での様子は良かったらしい。治療は一応良い方向には行っているようには見える。家族は随分喜んでいた。ご主人とは仲が良いですねと言うと、照れくさそうに笑っている。


入院20日目
前に比べ眠さはないです。朝が血圧が低い。フラっとします。
もう一度、外泊させてみる。


2回目外泊から帰棟時
家事も掃除もした。何でもできて元気になった。口の渇きもない。

あともう1回外泊させてみたが、やはり問題がなかったので約1ヶ月で軽快退院となった。初診時に亜昏迷だったわりに拍子抜けのような経過であった。しかし、彼女はこれからが大変だったのである。

まとめ
彼女の夫は優しい人であった。僕は彼女の家族のあり方は双極性障害、非定型精神病的だと思った。(参考1参考2)アモキサンの選択は、このような感じの人には良いと思ったのと、若干の抗ドパミン作用も考慮している。ただドグマチールを併用するなら、アモキサンの抗ドパミン作用なんて誤差範囲なので、とりわけアモキサンでなくても良いとは言えた。なんとなくだが、このような感じの人にはアモキサンを一度は使ってみたいのである。

初回入院はトントン拍子に回復して退院になった。彼女は統合失調症とは程遠く、一見して症状性という雰囲気はあったので、僕はアトピーが原因だと思った。しかしあくまで感覚的にそう思っただけで証拠はない。同じように治療したとしても、そう思わない医師も多いのではないかと思う。

広い意味の免疫系疾患がベースになっており、母親のリウマチの家族負因もそれを支持している。余談だが、一般に統合失調症とリウマチは合併しないと言われている。しかし統合失調症の患者さんの家族にリウマチの人がいることは稀にある。しかし稀というくらいなので、母親がリウマチなら、その人は統合失調症である確率は極めて低いくらいは言えるかもしれない。アモキサンの問題点は著しく便秘を来たすことであった。

この話には続きがある。

参考
①アトピーによる精神病状態
②混沌
③泥沼化
④死生命あり、富貴天にあり
⑤ECTによる治療と回復過程
⑥人間の秘めたるエネルギーと治癒の謎