悪性症候群の謎(補足)
「悪性症候群の謎」の続き。もう少し補足したい。天動説でも地動説でも誰も困らないと書いたが、治療的には微妙に違う。
その「悪性症候群」もどきの症状が出現した時、操作的診断法ではもちろん「悪性症候群」なので、「薬物を中止する」という1つの選択肢しかない。
臨床的には、そうすることが危険なケースもあるのである。僕はそのような症状が出現した時、
① 筋強剛、振戦、発汗などの自律神経症状の程度、CPKの値。
② どのくらいの薬物量を服用していたのか。
③ 昏迷、意識障害の程度。
④ 症状が起こってからの経過時間。
などを総合的に判断し身の振り方を決める。いずれにせよ補液はすぐに開始するが、すぐに薬を止めるどうかが違うのである。(つまり急に止めないこともあるということ)
例えばまだ症状が軽い時、悪性症候群と即断して薬物をばっさり中止すると、難治性のジストニアが出現し後で困ることがある。これは急に中止したことによる離脱性要素が大きく、時に重篤な場合は舞踏病様に見えることもある。これは治療が難しいのである。(特に薬物量が多い場合や知的発達障害などがあると急激な中断は危険だ)
たいていのケースでは薬を中止するのであるが、患者さんによれば焦らずに漸減することもあるのである。また、服薬中の薬の中にフェノバール(他にベゲタミンAなど)が入っている場合、急激に中止したために離脱性のけいれんが起こることもある。
だから、セレネースやリスパダールを中止しても、ベゲタミンAなどが数錠入っている場合はそれだけは止めないとか、柔軟な対応をする。そのようなゆるやかな対応ではちょっとまずそうなケースは、よく見ていればわかる。
結局、このようにマニュアルに沿わず、幅をもたせた対応をしていることこそ、悪性症候群を100%薬の副作用とは見なしていないことを示している。
悪性症候群は名前からしてアレだし、また薬の副作用だというし、患者さんやその家族に誤解されている部分が相当にあると思う。実は、悪性症候群はなかなかならない人と、比較的なりやすい人がいるのである。
これはなる人が悪いと言っているのではない。普通、悪性症候群が生じた場合、医師がすごくまずい治療をしていたように家族には見えるだろうと思う。実は、治療の流れで、なるべくしてなっていることの方が多いのである。
悪性症候群になりそうな人はなんとなくわかるが、それでも絶対ではない。大量に薬を使っているなら、医師も多少は落ち度がある場合もあるだろうが、そう多くない薬物量で生じることもけっこうある。薬の効果は個人差があり、例えばセレネース10mgが多いか少ないかは人によるからだ。一般にセレネース10mgはコントミン換算で500mgにしかならないので、この量が悪いという文脈になることはほぼないと思われる。とてつもない量はともかく、薬物量については医師の裁量が認められている。
だから、例えば悪性症候群を生じたとしても、たいていの用量ならば、その後、補液をするなど適切な処置をされていれば、医療行為としてはミスがあるとは言い難い。
僕がまだ30歳頃、たまたま叔父の家に遊びに行った時のことだ。その日、全く偶然だが、叔父の友人が家に訪ねてきて、その人の娘さんが悪性症候群になり大変な目にあったと言う。これは医療ミスなので、病院を訴えるかもしれないというのだ。
非常に面白そうな話だったので詳しく聞いてみた。そのお嬢さんは、内科で入院中、精神に変調を来たし病棟内で興奮しセレネースを筋注されたらしい。その後、次第に病状が悪くなり食事も取れなくなった。その後、救急病院に搬送されて、悪性症候群と診断されたというのである。その後しばらく入院し、その症状は後遺症を残さず良くなったという。
その後、元の病院に文句を言いに行ったらしい。その時の様子を聞いていて、思わず笑ってしまったのであるが、その院長はとんでもない失敗をしたと思っており平謝りだったらしい。まあ内科医でよく知らない薬を使ってこれだし、経験もなかったであろうし、それも理解できると思った。平謝りだったというのが、その院長の人柄がうかがわれて好感が持てる。それで彼女の父親は俄然強気になり、弁護士に相談に行ったという。
普段、リエゾンをよくしている僕にいわせれば、精神科医以外のドクターは向精神薬、特にメジャーは怖い、よくわからない薬と思っているケースが多く、無茶な量が投与されることは滅多にない。たいていの場合、「これで効くわけないじゃん」くらいのヘナチョコな量しか投与していないことが多い。
彼女の量もたったセレネース1Aだけだった。しかもその内科医はセレネースを使うべき時に使っている。これで悪性症候群を生じたということは、彼女はそれに親和性があったか、体調が悪すぎたのだと思われる。
この話を総合的にみれば、その内科医は救急病院に搬送したことも含め、適切な対応をしている。セレネースを筋注したことと、その後悪性症候群を生じたことは医療ミスでも何でもない。医療上の1つの結果に過ぎない。
そういうこともあり、もしこの裁判をしたなら、彼女とその家族はどうみても完敗であろう。
悪性症候群が生じた時に医師に落ち度があるとすれば、とてつもない常識はずれの大量の薬物量を投与していて起こったとか、悪性症候群が生じているのに補液などの最低限の処置もせず、保護室に放り込んでいて亡くなったとか、そういうケースだろうと思われる。
僕はその時、彼女の父親にそんな風に説明して、勝ち目がない裁判をすべきではないと言った。彼女は完治しているわけだし。もし何か後遺症が残っていたとしても負けるとは思うけどね。
ところが、あたかもその内科医をかばっているようにしか見えなかったらしい。このように説明してもわからないのだから、好きにして良しという感じだった。
このように、悪性症候群は一般人に誤解されやすいのである。
その「悪性症候群」もどきの症状が出現した時、操作的診断法ではもちろん「悪性症候群」なので、「薬物を中止する」という1つの選択肢しかない。
臨床的には、そうすることが危険なケースもあるのである。僕はそのような症状が出現した時、
① 筋強剛、振戦、発汗などの自律神経症状の程度、CPKの値。
② どのくらいの薬物量を服用していたのか。
③ 昏迷、意識障害の程度。
④ 症状が起こってからの経過時間。
などを総合的に判断し身の振り方を決める。いずれにせよ補液はすぐに開始するが、すぐに薬を止めるどうかが違うのである。(つまり急に止めないこともあるということ)
例えばまだ症状が軽い時、悪性症候群と即断して薬物をばっさり中止すると、難治性のジストニアが出現し後で困ることがある。これは急に中止したことによる離脱性要素が大きく、時に重篤な場合は舞踏病様に見えることもある。これは治療が難しいのである。(特に薬物量が多い場合や知的発達障害などがあると急激な中断は危険だ)
たいていのケースでは薬を中止するのであるが、患者さんによれば焦らずに漸減することもあるのである。また、服薬中の薬の中にフェノバール(他にベゲタミンAなど)が入っている場合、急激に中止したために離脱性のけいれんが起こることもある。
だから、セレネースやリスパダールを中止しても、ベゲタミンAなどが数錠入っている場合はそれだけは止めないとか、柔軟な対応をする。そのようなゆるやかな対応ではちょっとまずそうなケースは、よく見ていればわかる。
結局、このようにマニュアルに沿わず、幅をもたせた対応をしていることこそ、悪性症候群を100%薬の副作用とは見なしていないことを示している。
悪性症候群は名前からしてアレだし、また薬の副作用だというし、患者さんやその家族に誤解されている部分が相当にあると思う。実は、悪性症候群はなかなかならない人と、比較的なりやすい人がいるのである。
これはなる人が悪いと言っているのではない。普通、悪性症候群が生じた場合、医師がすごくまずい治療をしていたように家族には見えるだろうと思う。実は、治療の流れで、なるべくしてなっていることの方が多いのである。
悪性症候群になりそうな人はなんとなくわかるが、それでも絶対ではない。大量に薬を使っているなら、医師も多少は落ち度がある場合もあるだろうが、そう多くない薬物量で生じることもけっこうある。薬の効果は個人差があり、例えばセレネース10mgが多いか少ないかは人によるからだ。一般にセレネース10mgはコントミン換算で500mgにしかならないので、この量が悪いという文脈になることはほぼないと思われる。とてつもない量はともかく、薬物量については医師の裁量が認められている。
だから、例えば悪性症候群を生じたとしても、たいていの用量ならば、その後、補液をするなど適切な処置をされていれば、医療行為としてはミスがあるとは言い難い。
僕がまだ30歳頃、たまたま叔父の家に遊びに行った時のことだ。その日、全く偶然だが、叔父の友人が家に訪ねてきて、その人の娘さんが悪性症候群になり大変な目にあったと言う。これは医療ミスなので、病院を訴えるかもしれないというのだ。
非常に面白そうな話だったので詳しく聞いてみた。そのお嬢さんは、内科で入院中、精神に変調を来たし病棟内で興奮しセレネースを筋注されたらしい。その後、次第に病状が悪くなり食事も取れなくなった。その後、救急病院に搬送されて、悪性症候群と診断されたというのである。その後しばらく入院し、その症状は後遺症を残さず良くなったという。
その後、元の病院に文句を言いに行ったらしい。その時の様子を聞いていて、思わず笑ってしまったのであるが、その院長はとんでもない失敗をしたと思っており平謝りだったらしい。まあ内科医でよく知らない薬を使ってこれだし、経験もなかったであろうし、それも理解できると思った。平謝りだったというのが、その院長の人柄がうかがわれて好感が持てる。それで彼女の父親は俄然強気になり、弁護士に相談に行ったという。
普段、リエゾンをよくしている僕にいわせれば、精神科医以外のドクターは向精神薬、特にメジャーは怖い、よくわからない薬と思っているケースが多く、無茶な量が投与されることは滅多にない。たいていの場合、「これで効くわけないじゃん」くらいのヘナチョコな量しか投与していないことが多い。
彼女の量もたったセレネース1Aだけだった。しかもその内科医はセレネースを使うべき時に使っている。これで悪性症候群を生じたということは、彼女はそれに親和性があったか、体調が悪すぎたのだと思われる。
この話を総合的にみれば、その内科医は救急病院に搬送したことも含め、適切な対応をしている。セレネースを筋注したことと、その後悪性症候群を生じたことは医療ミスでも何でもない。医療上の1つの結果に過ぎない。
そういうこともあり、もしこの裁判をしたなら、彼女とその家族はどうみても完敗であろう。
悪性症候群が生じた時に医師に落ち度があるとすれば、とてつもない常識はずれの大量の薬物量を投与していて起こったとか、悪性症候群が生じているのに補液などの最低限の処置もせず、保護室に放り込んでいて亡くなったとか、そういうケースだろうと思われる。
僕はその時、彼女の父親にそんな風に説明して、勝ち目がない裁判をすべきではないと言った。彼女は完治しているわけだし。もし何か後遺症が残っていたとしても負けるとは思うけどね。
ところが、あたかもその内科医をかばっているようにしか見えなかったらしい。このように説明してもわからないのだから、好きにして良しという感じだった。
このように、悪性症候群は一般人に誤解されやすいのである。