1人目女性患者さんについて
うちの病院の外来患者さんで、同じような年頃の20代前半の女性患者さんが3人いる。全員とても綺麗な人たちなのである。3人とも、一時は幻覚妄想が酷く入院歴がある。(特に3人目の子は計3回、のべ1年の入院歴)
1名はルーランとセロクエルの併用。1人はエビリファイとセロクエルの併用。1名がエビリファイとプロピタンの併用であり、誰1人として単剤治療ではない。量はかなり少ないけど。(エビリファイは6mg以下、セロクエルは150mg以下)今は、全員幻覚妄想はみられない。
3人のうち、前者2人は明らかにプレコックス感が残っている。3人目は全然それがないので、たぶん、3人目の子は統合失調症ではないのだろうと思う。僕が、外来担当の看護師さんたちにそのことを話したら、誰にもその見分けがつかないのだそうだ。「え?、先生はわかりますか?」といった具合。「誰も気がつかないなら心配しなくてもいいね。でも僕は非常に気になる」
これは、3人の女性患者の概略で、「プレコックス感はなくなるのか?」から再掲している。
この1人目女性患者さんについて。
彼女は最初、僕の知り合いのクリニックに初診した。そのとき、ここでは無理なので他の病院に行くようにすぐに言われたのだという。まさに門前払いであった。しかしそのとき、友人はうちの病院を口頭で紹介したらしい。だから来院時は紹介状すらなかった。
家族同伴で来て外来の受付を済ませたが、本人は何がどうだから病院に連れて来られているのかさっぱりわかっていなかった。病識は欠如していたのである。外来ではすぐに警戒心が出て、さっさと外に出て行き車の中に入ってしまった。
ひと目見たとき、明らかに統合失調症であり、しかも緊張病症候群であることがわかったが、診察を受けるように勧めても一切を拒絶する。全く何も受け付けない感じであった。
こんな時、職員で周りを囲んで、毛布で包んで強制的に入院させたりするのは相当にまずい。結局はそうせざるを得ない場合があるにしても、ある程度そうでない方法が可能かどうか考慮すべきと思う。過激なやり方をした場合、彼女にとって、ずっと精神病院は乱暴で信頼できない存在になりうる。心の傷になってしまうのである。僕はその日に入院させるにしても、入院までに時間をかけるのが良いような気がしている。
彼女は、車内に立て篭もってしまったので、車の中を見に行った。僕が来ると、「プイッ」といった感じで、全然こちらを向かないような様子。ちょっと声もかけてみたが会話にもならないので、(僕も他の患者の診察もあるし)外来の婦長さんに説得を任せていた。
彼女はなんと2時間くらい、そのまま車の中に閉じこもっていたのである。車から出て行って何処かにいなくなるような感じはあまりなかったのだけど、一応、注意しなければならない。こういう精神症状の時は何が起こるか予測できない。
家族に最近の様子を聞いたが、病状は明らかに統合失調症の症状であった。その患者さんの母親は、何の病気なのか本を買って調べていたらしく、「うちの娘は統合失調症という病気ではないのでしょうか?」と僕に尋ねた。
僕は自分からは統合失調症はほとんど告知しないんだけど、こんな風に直接に聞かれると、ちょっと対応に迷う。(こういう質問は滅多にない)
しかし、家族から聞かれても、なお告知はしないのである。
これは後で他の病院に行くような展開になった時、前医が誤診していたとか、あるいは見立てがまずかったように思われることは少し気になる。しかし、ああいう感じの患者さんの場合、プロの精神科医は前医が誤診していたとは普通は思わないと思う。もしそれが恥なら、恥でかまわない。
しかし、家族には十分に気をつけなくてはならない疾患であること、勝手に服薬を中断すると悪い経過になりやすいこと、また病型的に今の状況からは見違えるほど改善する確率が高いことを説明した。彼女が車に立て篭もっていた時はそんな話をしていたのであった。
結局、家族と看護師でなんとか診察室まで連れて来て、少し話をした後、セレネースを筋注した。家族にも彼女が注射に応じるように手伝ってもらった。
本人は入院させられるということがわかっていたようでもあった。こんな風に来院して、しかもあの病状なら、何があっても入院させなくてはならない。もしその日に帰すと、今後精神科に受診することすら難しくなるから。これが女性だからこのくらいで済むが、男性でこの程度の重さならもっと大変なのである。
この患者さんは初診時は緊張病症候群であった。幻覚妄想も続いているようでかなり悪いのだが予後良好の病型である。問題なのは改善した後の服薬。それがうまくいけば、コントロールはさほど難しくはないことが多い。だから病院、主治医との信頼関係はかなり重要と思う。
最初、入院させた時、部屋をどうするか悩んだ。開放病棟は無理だし、閉鎖の4人部屋に入れるのもねぇ・・
結局、保護室を開放的に使いそこに入ってもらうことにした。昼間は開放するけど、夜間に開放したままだと、こちらが不安なので夜間のみ施錠。こういう形態なら隔離にならない。
最初、ジプレキサを5~10mgくらい処方していた。しかし、最初は良くなっているとも、悪くなっているとも判別がつかないような感じだった。少なくとも、急激に良くなっているようには見えなかった。ジプレキサは処方直後に悪化せず副作用がないように見える場合、その後の経過が良いことが多い。水のような効果の時はやがて良くなることが多いのである。
しかし、1週間目にこれはダメだと思える事件があり、入院時と本質的に何も変わっていないことがわかった。1週間目にジプレキサに見切りをつけたのであった。その後、リスパダールを最高6~8mgくらいまで処方して様子をみたところ、これは非常に良かった。
保護室では彼女の場合、いつも本を読んでいることが多かった。保護室に生まれて初めて入れられて、騒ぎもせず、悠々と本(詩集など)を読んでいる。これは大物だと思った。いつも、凛としているのである。
ある時、病棟婦長と一緒に保護室で診察している時、最近の体調などを聴いていた。どんな話の流れだったかもう忘れてしまったが、彼女が急に口に手を当てて笑いだした。なぜ笑うのか聞くと、彼女、「だって、先生たちが悪い人には見えないんだもん」と言ったのである。
彼女は2~3週間くらいはその保護室で療養したが、特に文句も言わなかったのである。こういう患者さんも珍しい。
その後、リスパダールで順調に改善したが1つだけ困ることがあった。彼女は入院以後、月経が来なかったのである。リスパダールは高プロラクチン血症を起こしやすい薬剤で無月経になりやすい。最終的にリスパダールでのコントロールは難しいと思った。それとリスパダールだけだと陰性症状への効果は今ひとつなのである。
もうかなり落ち着いていたので、リスパダールから徐々にセロクエルに切り替えることにした。セロクエルは全く問題がなく、切り替えは可能のように思われたので退院させることにした。入院期間は2ヶ月半。
退院時の処方は、
リスパダール 2mg
アキネトン 2mg
セロクエル 300mg
この処方は切り替え途中で過渡的なものだ。最終的にセロクエルだけで治療することは不安だった。セロクエルは何百mg処方していても不安のある薬物なのである。リスパダールは、かなり減量していてもプロラクチン値が正常化せず、また月経もなかったので、ルーランに変更しその際にセロクエルも減量することにした。セロクエルを増やした場合の体重増加が気になったのもある。結局、通院中に以下の処方に落ち着いた。
セロクエル 150mg
ルーラン 12mg (1日1回まとめて服用)
この処方は僕の感覚であって特に根拠はない。ちょっとだけ言えば、セロクエル単剤ならもっと量が増えるし、その場合、体重への影響が大きすぎることがある。少量でもセロクエルを使いたいが、多くは使いたくない結果がこの処方なのだ。この患者さんは入院直前に食欲が落ちて体重減少していたので、入院時に元に戻った形になった。この処方だとプロラクチンも正常化し月経も来るようになった。
退院後は僕の勧めもありデイケアに参加していた。次第に生活のリズムも身につき、数ヵ月後、再就職したのである。最初は派遣の仕事を数ヶ月していたが、その後、他の職種に変わって、もう2年以上勤務している。コンピュータの入力が主な仕事だけど、この間、仕事を休むほど悪くなるようなことは全然なかったので、病気のことは職場の人には誰にも気付かれていない。本人もそのように話していた。
だいたい本人は告知を受けていないので何の病気で治療しているのか今もわかっていないと思う。服薬をしているが副作用は全くないのだという。しかも本人は、何がどう効いているのか全然わからないらしい。
セロクエルは最終的にできれば中止して、ルーラン単剤を目指した。セロクエルのみ少しずつ減量していたのである(できれば50mg以下にしたかった)。
ある時、少しだけ悪化したような気がしたので、ルーランを16mgに増やした(ルーラン16mg、セロクエル120mg。眠剤も下剤も必要がなくこれだけなのである)。その際に、彼女は12mgより16mgが断然良いことを発見した。笑顔が随分良くなるのである。良くなって見ると、以前はちょっとぶっきらぼうだったと思う。それにしてもルーランは不思議な薬だ。うちの病院では、ルーランは少なめに服用している人ほど調子も良いし非定型を服用している雰囲気が出ている。
このように、病気がどうだから悲惨とかはない。彼女の場合、初診からきちんと連続して治療できたのが良かった。それと性格的に素直なのである。こっそり薬をやめているとかがないので、そこが安定している大きな理由だと思っている。
参考
プレコックス感はなくなるのか?
高プロラクチン血症
ルーラン
リスパダール
セロクエルの体重増加
向精神薬の1日の服薬回数
統合失調症の診断は・・
1名はルーランとセロクエルの併用。1人はエビリファイとセロクエルの併用。1名がエビリファイとプロピタンの併用であり、誰1人として単剤治療ではない。量はかなり少ないけど。(エビリファイは6mg以下、セロクエルは150mg以下)今は、全員幻覚妄想はみられない。
3人のうち、前者2人は明らかにプレコックス感が残っている。3人目は全然それがないので、たぶん、3人目の子は統合失調症ではないのだろうと思う。僕が、外来担当の看護師さんたちにそのことを話したら、誰にもその見分けがつかないのだそうだ。「え?、先生はわかりますか?」といった具合。「誰も気がつかないなら心配しなくてもいいね。でも僕は非常に気になる」
これは、3人の女性患者の概略で、「プレコックス感はなくなるのか?」から再掲している。
この1人目女性患者さんについて。
彼女は最初、僕の知り合いのクリニックに初診した。そのとき、ここでは無理なので他の病院に行くようにすぐに言われたのだという。まさに門前払いであった。しかしそのとき、友人はうちの病院を口頭で紹介したらしい。だから来院時は紹介状すらなかった。
家族同伴で来て外来の受付を済ませたが、本人は何がどうだから病院に連れて来られているのかさっぱりわかっていなかった。病識は欠如していたのである。外来ではすぐに警戒心が出て、さっさと外に出て行き車の中に入ってしまった。
ひと目見たとき、明らかに統合失調症であり、しかも緊張病症候群であることがわかったが、診察を受けるように勧めても一切を拒絶する。全く何も受け付けない感じであった。
こんな時、職員で周りを囲んで、毛布で包んで強制的に入院させたりするのは相当にまずい。結局はそうせざるを得ない場合があるにしても、ある程度そうでない方法が可能かどうか考慮すべきと思う。過激なやり方をした場合、彼女にとって、ずっと精神病院は乱暴で信頼できない存在になりうる。心の傷になってしまうのである。僕はその日に入院させるにしても、入院までに時間をかけるのが良いような気がしている。
彼女は、車内に立て篭もってしまったので、車の中を見に行った。僕が来ると、「プイッ」といった感じで、全然こちらを向かないような様子。ちょっと声もかけてみたが会話にもならないので、(僕も他の患者の診察もあるし)外来の婦長さんに説得を任せていた。
彼女はなんと2時間くらい、そのまま車の中に閉じこもっていたのである。車から出て行って何処かにいなくなるような感じはあまりなかったのだけど、一応、注意しなければならない。こういう精神症状の時は何が起こるか予測できない。
家族に最近の様子を聞いたが、病状は明らかに統合失調症の症状であった。その患者さんの母親は、何の病気なのか本を買って調べていたらしく、「うちの娘は統合失調症という病気ではないのでしょうか?」と僕に尋ねた。
僕は自分からは統合失調症はほとんど告知しないんだけど、こんな風に直接に聞かれると、ちょっと対応に迷う。(こういう質問は滅多にない)
しかし、家族から聞かれても、なお告知はしないのである。
これは後で他の病院に行くような展開になった時、前医が誤診していたとか、あるいは見立てがまずかったように思われることは少し気になる。しかし、ああいう感じの患者さんの場合、プロの精神科医は前医が誤診していたとは普通は思わないと思う。もしそれが恥なら、恥でかまわない。
しかし、家族には十分に気をつけなくてはならない疾患であること、勝手に服薬を中断すると悪い経過になりやすいこと、また病型的に今の状況からは見違えるほど改善する確率が高いことを説明した。彼女が車に立て篭もっていた時はそんな話をしていたのであった。
結局、家族と看護師でなんとか診察室まで連れて来て、少し話をした後、セレネースを筋注した。家族にも彼女が注射に応じるように手伝ってもらった。
本人は入院させられるということがわかっていたようでもあった。こんな風に来院して、しかもあの病状なら、何があっても入院させなくてはならない。もしその日に帰すと、今後精神科に受診することすら難しくなるから。これが女性だからこのくらいで済むが、男性でこの程度の重さならもっと大変なのである。
この患者さんは初診時は緊張病症候群であった。幻覚妄想も続いているようでかなり悪いのだが予後良好の病型である。問題なのは改善した後の服薬。それがうまくいけば、コントロールはさほど難しくはないことが多い。だから病院、主治医との信頼関係はかなり重要と思う。
最初、入院させた時、部屋をどうするか悩んだ。開放病棟は無理だし、閉鎖の4人部屋に入れるのもねぇ・・
結局、保護室を開放的に使いそこに入ってもらうことにした。昼間は開放するけど、夜間に開放したままだと、こちらが不安なので夜間のみ施錠。こういう形態なら隔離にならない。
最初、ジプレキサを5~10mgくらい処方していた。しかし、最初は良くなっているとも、悪くなっているとも判別がつかないような感じだった。少なくとも、急激に良くなっているようには見えなかった。ジプレキサは処方直後に悪化せず副作用がないように見える場合、その後の経過が良いことが多い。水のような効果の時はやがて良くなることが多いのである。
しかし、1週間目にこれはダメだと思える事件があり、入院時と本質的に何も変わっていないことがわかった。1週間目にジプレキサに見切りをつけたのであった。その後、リスパダールを最高6~8mgくらいまで処方して様子をみたところ、これは非常に良かった。
保護室では彼女の場合、いつも本を読んでいることが多かった。保護室に生まれて初めて入れられて、騒ぎもせず、悠々と本(詩集など)を読んでいる。これは大物だと思った。いつも、凛としているのである。
ある時、病棟婦長と一緒に保護室で診察している時、最近の体調などを聴いていた。どんな話の流れだったかもう忘れてしまったが、彼女が急に口に手を当てて笑いだした。なぜ笑うのか聞くと、彼女、「だって、先生たちが悪い人には見えないんだもん」と言ったのである。
彼女は2~3週間くらいはその保護室で療養したが、特に文句も言わなかったのである。こういう患者さんも珍しい。
その後、リスパダールで順調に改善したが1つだけ困ることがあった。彼女は入院以後、月経が来なかったのである。リスパダールは高プロラクチン血症を起こしやすい薬剤で無月経になりやすい。最終的にリスパダールでのコントロールは難しいと思った。それとリスパダールだけだと陰性症状への効果は今ひとつなのである。
もうかなり落ち着いていたので、リスパダールから徐々にセロクエルに切り替えることにした。セロクエルは全く問題がなく、切り替えは可能のように思われたので退院させることにした。入院期間は2ヶ月半。
退院時の処方は、
リスパダール 2mg
アキネトン 2mg
セロクエル 300mg
この処方は切り替え途中で過渡的なものだ。最終的にセロクエルだけで治療することは不安だった。セロクエルは何百mg処方していても不安のある薬物なのである。リスパダールは、かなり減量していてもプロラクチン値が正常化せず、また月経もなかったので、ルーランに変更しその際にセロクエルも減量することにした。セロクエルを増やした場合の体重増加が気になったのもある。結局、通院中に以下の処方に落ち着いた。
セロクエル 150mg
ルーラン 12mg (1日1回まとめて服用)
この処方は僕の感覚であって特に根拠はない。ちょっとだけ言えば、セロクエル単剤ならもっと量が増えるし、その場合、体重への影響が大きすぎることがある。少量でもセロクエルを使いたいが、多くは使いたくない結果がこの処方なのだ。この患者さんは入院直前に食欲が落ちて体重減少していたので、入院時に元に戻った形になった。この処方だとプロラクチンも正常化し月経も来るようになった。
退院後は僕の勧めもありデイケアに参加していた。次第に生活のリズムも身につき、数ヵ月後、再就職したのである。最初は派遣の仕事を数ヶ月していたが、その後、他の職種に変わって、もう2年以上勤務している。コンピュータの入力が主な仕事だけど、この間、仕事を休むほど悪くなるようなことは全然なかったので、病気のことは職場の人には誰にも気付かれていない。本人もそのように話していた。
だいたい本人は告知を受けていないので何の病気で治療しているのか今もわかっていないと思う。服薬をしているが副作用は全くないのだという。しかも本人は、何がどう効いているのか全然わからないらしい。
セロクエルは最終的にできれば中止して、ルーラン単剤を目指した。セロクエルのみ少しずつ減量していたのである(できれば50mg以下にしたかった)。
ある時、少しだけ悪化したような気がしたので、ルーランを16mgに増やした(ルーラン16mg、セロクエル120mg。眠剤も下剤も必要がなくこれだけなのである)。その際に、彼女は12mgより16mgが断然良いことを発見した。笑顔が随分良くなるのである。良くなって見ると、以前はちょっとぶっきらぼうだったと思う。それにしてもルーランは不思議な薬だ。うちの病院では、ルーランは少なめに服用している人ほど調子も良いし非定型を服用している雰囲気が出ている。
このように、病気がどうだから悲惨とかはない。彼女の場合、初診からきちんと連続して治療できたのが良かった。それと性格的に素直なのである。こっそり薬をやめているとかがないので、そこが安定している大きな理由だと思っている。
参考
プレコックス感はなくなるのか?
高プロラクチン血症
ルーラン
リスパダール
セロクエルの体重増加
向精神薬の1日の服薬回数
統合失調症の診断は・・