「えっ、応援ってクリスさんなんですか?」

「まあね」

タクトの問いに、クリスはさらりと答える。

―どこをどう経由してきたかは知らないけど。そう言えばクリスさんは「年無国ルール」をクリアできるんだな―

タクトはふと気付いて思った。

 

よく見ると、クリスの反対側に小さな人影がある。

「コウタくん?」

今度は、ガクが声をあげた。コウタはサーヤが船の床で足を滑らせないよう、そっと支えているらしい。

「ガクくーん!」

コウタは無邪気に手を振る。が、オンブバッタのサーヤが船からスロープを下る段になると、すっと離れて船内に残った。

「いやあ、大変だったよ。ガクの兄ちゃんがバッタ付き断るからさ。ま、元々俺は世話係だったからね」

「え、初耳!」

「俺は年無国(ねむこく)には入れないから後は頼んだよ!あと、クワキチは順調だから心配しないでー!」

距離的にはさほど離れていないが、少年2人はずっと大声で話している。

 

そうこうしているうちに、クリスとサーヤはフィアンセに続いて上陸した。

「あれ?応援はクリスさんだけなんですかね。オンブバッタ2匹が場所をとるとはいえ……。この船ならもう少しいると思ってました」

タクトがぽつりと言うと、レイラが答える。

「いや、もう1人いると聞いたぞ」

 

その時、奥からカサコソと擦れるような音がする。オンブバッタの足音ではないようだ。目を向けてみると、大きな体が軽く跳びはねるような歩き方でこちらにやってくる。

「な、な、なんですかあれは!!!」

タクトは腰を抜かしそうになった。

 

オンブバッタとは全く違う形状のバッタだ。体は太くて大きく、なんとなく弓なりに曲がっている。脚は6本とも長くて目立つ。規格外の大きさだ。体全体に、トラのような独特の模様がある。気持ち悪いと言えば気持ち悪いが、顔だけ見ると穏やかで優しそうな表情をしていた。

「うわあ、可愛い!カマドウマだよね?」

レイラが説明するよりも早く、ガクが嬌声をあげた。やや引き気味のタクトとは対照的に、目がキラキラと輝いている。

「さよう。彼は騎乗用のカマドウマであるぞ。珍しかろう」

セルウィンが嬉しそうに言った。どうやらバッタ全般が好きなようだ。

 

改めて曳き出されている様子をタクトは見た。横で曳き手を握っている女性が、軽くこちらを見て会釈した。

 

 

 

 

〈おまけ〉

船には結局、オンブバッタであるフィアンセとサーヤのほかに、カマドウマが騎乗用昆虫としていたことになります。

このカマドウマとは何ぞや、と思う人が多いかもしれません。

日本の古い家屋ではときどき出現する昆虫で、さほど珍しいものでもないです。

 

別名、ベンジョコオロギ。ずいぶん嫌な名前をつけられたものですね。

もともと薄暗い場所を好むため、光のさしにくいトイレなどに出没してしまうだけです。一部のハエなどのように、人糞を好んでいるわけではないです。雑食性で、植物や昆虫の死骸などをえさにしています。

 

カマドウマという名前は「竈(かまど)にいる馬みたいな虫」くらいの意味。昔はかまどのなかにいたんですね。そこも暗いですから。こちらの方が、嫌な感じがしないのでいいなと思います。

 

福岡にある母の実家では、このカマドウマが出没しました。古い家で隙間がいろいろあったものですから、入ってきやすかったんでしょう。多分、床下のあたりを歩いているうちに迷い込んだんだと思います。それを、私や従姉は何度も追っかけ回しました。怖がってタンスの間に逃げ込んでしまうことが多かったです。申し訳なかったですね。

 

古くは「いとど」と呼ばれていました。松尾芭蕉の俳句にも詠まれ、庶民的で親しまれた昆虫だったようです。

 

 

今回は、騎乗スタイルで描いてみました。顔が細長くて馬っぽいのが伝わりますかね。

目が細長くて大きく、思慮深そうな顔をしているように見えます、私には。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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