2人はバスの後部座席で、ゆらゆらと揺られていた。

なかなかの田舎だから、昼間でもバスは1時間に1本くらいしか来ない。

急いで準備して出かけ、なんとか到着時刻の5分前にバス停に滑り込んだのだった。

 

「会うの久しぶりだよねえ。お母さん元気かな」

「元気じゃないだろ、入院してるんだから」

少年の呟きに、兄は苦笑いしていた。

 

「いつ以来だっけ?」

「オレの誕生日あたりだったから、4月かな」

「もう3か月も会ってないのかあ」

 

バスはご丁寧にも病院の目の前で止まった。

田舎の病院でそもそも病床数が少ないので、小さいながら部屋は全て個室である。

「208 コト ノリナガ 様」と書かれた札を確認し、軽くノックをした。

病室に入ると、こちらを見つめる母親と目が合う。

 

―母さん、少しやせたかな―とタクトは思った。

タクトは兄の名である。

「ガク、タクト、久しぶりね」

母親のコトはさほど表情を変えずに言った。

 

「お母さーん!」

ガクはその言葉を聞くやいなや、ベッドになかば飛び込むようにしてコトに抱きつく。

少しだけ微笑みながらガクの頭をなでるコトの手。

ガクは弟の名だ。

 

「タクト、大学の推薦通ったそうね。さすがだわ」

「まあ、こう見えて一応優等生だからな」

「これで安心して頼めるわね」

 

なぜか不敵な笑みを浮かべてコトが言った。

「頼み?」

タクトは不思議そうな顔をする。

それはそうだ、頼みがあるなら呼びつけずに電話で言えばいいのだから。

 

「お父さんを探してきてほしいの」

「いや、父さんは……」

タクトは口ごもった。

「曽利国(そりこく)で働いているんだよね?会いに行くの?めちゃくちゃ遠いじゃん」

ガクはぽかんとしている。

 

「探すってどういうこと?働いている会社の寮に住んでいるんじゃなかった?何か父さんの身に問題でも?」

コトは黙り込み、目を伏せてわなわなと震え出した。やがて口を開く。

「養育費が払われていないの、3か月もよ」

「3か月?」

 

 

 

 

〈おまけ〉

1話目ではあえて伏せていた兄弟の名前を出してみました。

年の差兄弟で、のびのびと育った次男坊のガク。

苗字は漢字で書くと「則永」、下の名前は漢字で「楽」です。

現代の話ではなく未来設定なので、名前は国際規格に基づいて苗字を後に名乗るのが主流になってきています。

 

 

イメージスケッチでは、いわゆる「坊ちゃん刈り」とも言えるマッシュルームカットみたいなのにしています。

基本設定は「無邪気な女好き」。

つやつやの天使の輪を維持するため、ブラッシングを欠かさないそうです。

髪の毛つやつやだと女の子が「触らせて~」と寄ってくるんだとか。

モテのためなら手間を惜しまない努力家でもあるガク。

その情熱を学校の勉強にも向けてくれと作者はひそかに思っています。

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

毎週木曜日に更新予定です!

 

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