新しく勤めた病院は、打って変ってとても良心的だった。

『学生さんには勉強して貰わなくちゃ』と言うのがにじみ出ていて、午前診も11時であげてくれるし、夜間診の担当は週に2回だけだった。

ある夜の事、救急車のサイレンで目が覚めた。
案の定、寮の電話が鳴る。

『詰め所まで来てくれる?』

呼び出しである。

こんな事は結構有るもので、当直が2人のこの病院は、夜中に救急が入った場合はそちらに手が取られる為、詰め所の番として私が呼ばれるのだ。

当時の寮生は学生は私だけで、後は栄養士と看護婦の2人だった。

看護婦の方を呼べばイイのだろうが、ただ数時間詰め所でボーっとしている方が多い状況なら、ほとんど私が呼ばれる。
恐らく、深夜勤務に対する給与の問題も有るのだろう。


いつもと同じ様に、スエットの上下のままでボーっと詰め所の椅子に座ってた。

救急患者は入院になった様で、ストレッチャーで病棟に上がって来た。

とは言っても、骨折と火傷と言う事なので、命に別状が無い。

『バイクで転倒』の交通事故らしい。

な~んだ、夜道を走ってて勝手にスッ転んだのか。

カルテと一緒にレントゲンが上がって来たので、整理を任された。


これが夫との初対面である。
左手小指が、ポッキリと開放性骨折だった。
左下肢脹脛部分が熱傷。

次の日から治療が始まるのだが、一応私は湿布の貼り換えに回る事になる。

病室に行って、患者の湿布を貼り換えて回るだけで有るが、結構人間模様が見える。

不必要に湿布を多量に貰い、後で患者に売りさばく婆さん。

色々な事情が有って治療費を国から出して貰っている患者の場合、何をどれだけ貰った所で、現金的には一円も払わない。

なので『貰える物は出来るだけ多く貰っとく。市販の薬局で買ったら、いくらすると思ってんだい?』と言う事になる。

院外の友人が見舞いに来た時に『アンタ、腰痛いって言うとったやろ?湿布要らんか?安うしとくで♪』となる。

湿布だけじゃない。
痛み止めも同様である。

『頭痛がする。肩こりが酷い。腰が痛い。』

そう言っては何度も痛み止めを貰おうとする。

現在では数回分を一度に渡すとか、患者に渡して『飲んどいてね』などと言う事は少なく、一日の処方量しか出さないし、目の前で飲ませる。

けれども『言えばその度にくれる。貯めておける。』と言うのが当たり前になっている年代なので、『痛いから辛抱できない』と言うので薬を持って行くと『後で飲む。置いといて。』の一点張りになる。

湿布も『後で自分で貼るから置いといて。かぶれない上等の絆創膏も一緒に置いといて。』である。

湿布もその場で貼るからと言うと、『今は腰が痛いから動けない。後で自分でするから。』と言って聞かない。

ココは病院です。
痛くて動けないからこそ、看護婦が介助して湿布を貼るんです。

色々な個性が盛り沢山です。



で、話を元に戻します。

そんな中、物凄ーーく個性の薄い、記憶に残らないタイプの患者が夫だった。

ただ一点。
食事の度におかわりをするのが夫一人だったので、詰め所では『おかわりの人』と呼ばれていた。

ある日の事、長年入院している長老の様な患者が声を掛けて来た。

『○○号室のIさんとTさんの、どっちにする気なんや?』



(゜o゜) ハア?? 何の事です??



この時初めて知ったのだが、患者間でIさんとTさんの二人が『結婚するならかづぷーちゃんみたいな人だよな~。』と言う話をそれぞれでしていたそうで、またIさんとTさんは隣のベッドだった為、結構険悪な部分も有ったらしい。

有る日、湿布を貼り換えに行くと、Tさんが『病院の隣の喫茶店にお茶でも行こうよ♪』と誘ってくれた。

Tさんは有名大学出の24歳だった。
けれど病気は肝臓系で、酒は飲まずに男前で若いんだが『神経質なのか?』と詰め所で話題にもなった事が有る人だった。

一方Iさんは、冴えないわ、根暗そうだわ、いわゆるオタクっぽい感じだった。

軽々しく患者の誘いに乗った訳じゃなく、このTさん、実は同じ寮生の栄養士さんにホの字だ。

栄養士の方もかなり気が有るのだが、栄養士の方が3歳年上。
二の足を踏んでいる。

そこで、密かに私が橋渡しをしてやろうと思っていた訳である。

『喫茶店に行こう』と私を誘って、栄養士も一緒に出て来る。
そこで私が気を利かせて席を外せばイイ雰囲気と言う訳だ。

元々気が有る者同士なんだから、ちょっとしたきっかけで上手く行きそうだと思った。




ところが!!




隣のベッドのIさんが突然ムクッと起き上がり


『僕も行く…』 (o- -)oムクッ








なんでだよ…

誰も誘ってねーじゃんか!

来んなよ!

松葉杖着いて、左手にギブスしてまで付いて来んな!!











そう…

このIさんが夫です。







結局毎回着いて来て、喫茶店では私と栄養士、TさんとIさんの4人で居る。

Tさんは外からは何一つ患者には見えないが、Iさんは思いっきり患者だ。

第一、着替えはしているものの、左手は肘までの立派なギブス。

そして松葉杖。

『後はお二人さんで~♪』と消えようにも、こいつが居るから消えにくい。

空気読めよ!!





それから数回後に、TさんはIさんに栄養士と付き合っている事を言い、Iさんはホッとしたらしい。
その後は、Tさんが直ぐに退院したので、Iさんに邪魔される事も無くなった。




で…、その後。

『僕、かづぷーさんが好きなんです。結婚を前提に付き合って下さい!!』

と言う奴が現れた。

Iさんではなく、新顔のAさんだ。

Aさんは結構しつこく、家族構成をペラペラと話し出したりするので、かなり鬱陶しかった。


『僕は一人っ子で、父は大学の教授で、母は高校の校長です。』





あーヤダ…  ┐(´-`)┌





『僕の実家の隣に、5LDKの一戸建てがもう有るんです。』





余計にヤダ… ┐( -"-)┌ヤレヤレ...





その話を、一度Iさんに愚痴ってみたら、Aさんに宣戦布告をしたらしい。

何故そうなるのか…



と思っていたが、意表を突いた様にAさん退院。

その直後である。



学生が夕食を食べるのは患者と同じ食堂だが、ほとんど誰も居ない食堂の隅で一人で食べていた。

有る晩の事。

夕食を食べようと食堂に行くと、Iさんがテレビの前で噛り付いていた。

位置的には↓こう。

○○○○○○●←Iさん
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
★○○○○○○





次の日。

○○○○○○○
○○○○○●○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
★○○○○○○

次の日。

○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○●○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
★○○○○○○

次の日。

○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○●○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
★○○○○○○










































近付いて来てる!!












その後も徐々に

○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○●○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
★○○○○○○

   ↓

○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○●○○○○○
○○○○○○○
★○○○○○○

   ↓

○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○○
●○○○○○○
★○○○○○○






ついに真正面に座る様になった…。



そして、明る~く


『今、仕事終わり~?』


と、聞いて来る様になった。


飯を食っている最中に、顔を見上げるとIさん。

ちなみに当時のIさんはセサミストリートの『カウント』だった。


カウント
『カウント』




こんな顔を真正面に見て、毎日しゃべり掛けられながらの晩飯は辛い。


真正面にIさんが座る様になってから数日後、婦長に呼び出された。

『呼ばれた』のでは無く『呼び出された』のだからイイ話ではない。

婦長、開口一番。



『アナタ、Iさんと付き合っているの??』






(゜Д゜) ハア??




『どうして黙っているの!』




さすがに、思考回路が一瞬止まった。



違うと言っても婦長からは『二度とこんな噂が出ない様に!』とキツクお灸をすわれ、物凄くIさんに腹が立った。

次の日に晩飯を食いに行くと、いつもの様に私の席の真正面に座って待っているIさん。

ニコニコ笑顔で『お疲れ様♪』と言っている。







恐らく私は物凄い鬼の形相だったであろう。


Iさんをキッと睨みつけてこう言った。






『Iさん!!私の事、好きなんですか!?』







Σ('◇'*)エェッ!?







『私、迷惑なんですけど!!』







( ̄□|||| ハイ…







『それに、今彼氏居ますから!!』







ガ━━(= ̄□ ̄=)━━ン!!
























普通ならココで話は終了になる筈だろう。

この後、Iさんは意外な事を言い出すのである。




続きはまた後日。v(*'-^*)b♪















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