こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
何とも鬱陶(うっとう)しい蒸し暑さを感じる休日の午後になっています。
世界のニュースを見ますと、さらに鬱陶しさを感じるのは、私だけでしょうか?
たまたま、目にした記事ですが・・・「歴史」の知識がない者が多くなっているという内容のものがありました。
共和制ローマの政治家・哲学者であったマルクス・トゥッリウス・キケロは、現代にも通じる名言を残した人物として知られていますが次のような言葉を残しています。
Not to know what has been transacted in former times is to be always a child. If no use is made of the labours of past ages, the world must remain always in the infancy of knowledge.
過去に起きたことを知らないのは、永遠に子どものままでいることだ。過去の時代の労苦が活用されなければ、世界は知識の幼年期にとどまり続けるだろう。
なるほど、現代に生きる人の心にも刺さりそうだ・・・と思うのは、
私だけでしょうか?
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は、「サーカディアンリズム(概日リズム)」と「神経学的疼痛」の関係について、お話をしてみたいと思います。
「夜間に痛みが激化する」、「明け方に症状が悪化する」といった「疼痛」の強度の時間的変動は、慢性疼痛、とりわけ神経障害性疼痛(neuropathic pain)を抱える患者さんにおいて広く共有されている臨床的特徴であると言えます。
帯状疱疹後神経痛(PHN)、糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)、三叉神経痛などの患者の多くが、「痛みの強さ」に明確な「日内変動(diurnal variation)」があると報告しています。
近年の時間生物学研究は、この現象が単なる主観的な錯覚ではなく、生物学的な根拠に基づくものであることを解明しつつあります。
その中核を担う(になう)のが「サーカディアンリズム(概日リズム)」、すなわち体内時計であるというわけです。
生物は約24時間周期で生命活動を律する精巧な分子時計を細胞レベルで保有しており、睡眠・覚醒サイクル、体温調節、ホルモン分泌、免疫・炎症反応など、ほぼすべての生理機能がこのシステムによって時空間的に制御されていることがわかっていいます。
近年の基礎医学研究は、侵害受容閾値の変動、中枢および末梢の神経炎症、さらには疼痛関連神経回路の可塑性(かそせい)もまた、この「サーカディアンリズム(概日リズム)」の強力な制御下にあることが示されているのですね。
そこで、今回は「サーカディアンリズム(概日リズム)」を動かす分子のメカニズムをお話をした上で、神経障害性疼痛の発症・維持メカズムとの関わりを、末梢神経から脊髄後角、大脳皮質に至る階層的な視点からお話をしてみたいと思います。
そして、これらの知見をもとにした「時間医療(クロノセラピー:chronotherapy)」の可能性について、お話をしてみたいと思います。
「サーカディアンリズム(概日リズム)」は、約24時間周期の自律的な振動を示す生理機能であり、その分子基盤は「時計遺伝子(clock genes)」群からなる転写・翻訳フィードバックループ(Transcription-Translation Feedback Loop: TTFL)によって形成されています(参考1)。
生体全体のリズムを統御(とうぎょ)する「マスタークロック(主時計)」は、視床下部の「視交叉上核(Suprachiasmatic Nucleus: SCN)」に存在します。
SCNは網膜の固有「視細胞」から投射する網膜視交叉上核路(RHT)を介して光情報を受け取り、外界の明暗サイクルに同調します。
そして、神経性・体液性シグナルを介して全身の「末梢時計」の位相(ずれ)を統合・調節しています(参考2)。
「マスタークロック(主時計)」の存在する「視交叉上核(Suprachiasmatic Nucleus: SCN)」の代表的な出力システムとしては、次のようなものがあることが知られています。
松果体(しょうかたい)からの「メラトニン分泌」(夜間に上昇)および、「視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸」を介した「グルココルチコイド(ヒトではコルチゾール:朝方に上昇)」の分泌が挙げられ、これらが全身の「末梢時計」の重要な同調因子(zeitgeber)として機能することが分かっています。
重要なことに、「侵害受容シグナル」の一次中継組織である「後根神経節(Dorsal Root Ganglion: DRG)」や、痛みの統合・修飾を行う「脊髄後角(Dorsal Horn)」などの神経組織にも、SCNとは独立して自律的に機能する末梢時計が存在することが明らかになっています。
この痛みの受容・伝導路における「局所的な分子時計」の存在こそが、「神経障害性疼痛」と「サーカディアンリズム」を直接結びつける解剖学的・分子生物学的基盤となるというわけですね。
では、ヒトにおける「痛み」の感受性に日内変動(概日変動)は、
どのようにして生じるのでしょうか?
この話題は。後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>5月26日
今回は、「慢性疼痛」や「神経障害性疼痛」などが「サーカディアンリズム(概日リズム)」の影響を受けることについて、お話をさせていただきました。
「痛み」は24時間の中で強さが変動し、その大きなドライバー(促進因子)の一つが「サーカディアンリズム」であるとされています。
以前にもお話をしたことがあるかと思いますが・・・「視交叉上核(SCN)」が「親時計(マスタークロック)」として、全身の臓器にある「末梢時計」を同調させるわけですが・・・
そのメカニズムには、「時計遺伝子(clock genes)」というものが存在し、「サーカディアンリズム」を作り出しているわけです。
代表的な「時計遺伝子」としては、CLOCK, BMAL1, PER,CRYなどがありましたね。
「神経障害性疼痛(neuropathic pain)」でも日内変動やこれらの「時計遺伝子」の関与が示されていまして、「睡眠障害」とも複雑に絡み合っている可能性が指摘されているのですね。
実際に多くの総説を見ますと・・・糖尿病性末梢神経障害・帯状疱疹後神経痛などの「神経障害性疼痛」は夕方〜夜に痛みがピークになることが多いと報告されていますし、(参考3)
「線維筋痛症」でも明確な「サーカディアンリズム(概日リズム)」のパターンを示し、痛み管理への応用可能性が指摘されています(参考4)。
ところで、「睡眠」の状態がよくないことは「痛み」を悪化させるのでしょうか?
この答えは、以下のようなものになります。
ヒトを対象とした厳密(ちみつ)な実験では、睡眠や行動の影響を排除した条件下においても、
痛みの感受性が明確な「日内変動」、つまり「サーカディアンリズム」のパターンを示すことが報告されているのですね。
つまり、「痛み」の変動の大部分は、「サーカディアンリズム」によるものであり、この影響に比較しますと「睡眠」の影響は比較的、限定的なものであると考えられているわけです(参考5)。
疾患ごとに痛みの時間的パターンが異なることも知られています。「神経障害性疼痛」では夜間に痛みが増強する傾向があり、一方で「関節リウマチ」では朝方に痛みが強くなることが多く報告されています(参考6)。
これは「炎症性サイトカイン」や「サーカディアンリズム」による神経伝達系の「時間依存的変動」が関与しているからと考えられています。
近年、「痛みの制御に関わる神経系そのものにも「末梢の時計機構」が存在することが明らかになっています。
例えば、「脊髄後角(せきずいこうかく)」という部分において「時計遺伝子」の発現が低下すると、神経の過敏化(かびんか)が生じ、「痛覚過敏」が誘導されることが動物モデルで示されています。
「脊髄後角」は、皮膚や筋肉、内臓が感じ取ったさまざまな感覚(痛覚、温度覚、触覚、深部感覚)を、感覚神経を通じて最初に受け取る場所になります。

受け取った感覚情報を脳に送る前に、脊髄内で情報を処理・統合します。
例えば、痛みを和らげる痛みの信号が脳に伝わる前にブロックされる現象も、主にこの「脊髄後角」が役割を担う(になう)ことになります。
また、ある別の「時計遺伝子」の異常が生じることにより「内因性カンナビノイド系」が活性化し、痛みが抑制される可能性も報告されています(参考7)。
内因性カンナビノイド系(ECS)とは、
- 神経の過剰興奮を抑える
- 炎症を鎮める
- 痛みを軽減する
という「ブレーキ機構」の働きをします。
ただし、これらの知見の多くは動物実験に基づくものであり、ヒトでの検証をしていく必要があるともされています。
「線維筋痛症」などの「慢性疼痛」でも、神経だけでなく免疫系も重要な役割を担うとされています。
例えば、「ミクログリア」などの免疫細胞は、「サーカディアンリズム」に従って、「炎症」応答を変化させ、時間帯によって「サイトカイン」の分泌量が変動することが知られています(参考8)。
夜間の光曝露や生活リズムの乱れは、上記のような調節機構を破綻させ、炎症を増強させる可能性があるとされています(参考9)。
先にお話をしたように「慢性神経疼痛」と「睡眠障害」は、「サーカディアンリズム(概日リズム)」ほどではないものの、密接に関連して悪循環を形成します。
「痛み」によって睡眠が障害されると、脳内の炎症が増強し、その結果さらに「痛み」が強くなることが知られています。この過程には「P2X7受容体」というものを介した「ミクログリア」の活性化が関与していると報告されています(参考10,11)。
「ホルモン」の影響も重要です。夜間に分泌される「メラトニン」は鎮痛作用と抗酸化作用を持ち、痛みを抑制する方向に働きます。
一方、朝方に分泌される「コルチゾール」は抗炎症作用を持ち、炎症性疼痛を抑制します(参考12,13)。
夜間はコルチゾールが低下するため、炎症が優位となり、「痛み」が増強しやすい時間帯となるわけですね。
これらの知見から、薬剤投与のタイミングを最適化する「時間医療(クロノセラピー)」が注目されています。鎮痛薬の効果は投与時刻によって変化することが示されており、体内時計に基づいた治療戦略の重要性が指摘されています。
また、生活習慣の改善も重要な介入手段です。
規則正しい睡眠、朝の光曝露、夜間のブルーライト回避などは体内時計を整え、神経炎症を抑制することで痛みの改善に寄与する可能性があります(参考14)。
以上のように、「痛み」は単なる局所的な現象ではなく、体内時計、免疫、神経系が相互に作用する全身的な生理現象であると考えることができます。
「サーカディアンリズム」を初めとして、体内時計分子・神経炎症を標的とした新規治療の可能性も報告されていますが・・・それについてのお話はまたの機会にしたいと思います。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)J Pain Res. 2025 Sep 9:18:4687-4698.
Circadian Rhythms and Pain: A Narrative Review on Clock Genes and Circadian-Based Interventions
Zong-Qi Huangら
2)Annu Rev Neurosci. 2012:35:445-62.
Central and peripheral circadian clocks in mammals
Jennifer A Mohawkら
3) Pain Pract. 2023 Jan;23(1):94-109.
Circadian pain patterns in human pain conditions - A systematic review
Nebojsa Nick Knezevicら
4) Neurosci Biobehav Rev. 2021 Oct:129:296-306.
Circadian rhythms and pain
Jacob R Bumgarnerら
5)Brain. 2022 Sep 14;145(9):3225-3235.
Circadian rhythmicity of pain sensitivity in humans
Inès Daguetら
6)Pain Pract. 2023 Jan;23(1):94-109.
Circadian pain patterns in human pain conditions - A systematic review
Nebojsa Nick Knezevicら
7)PNAS Nexus. 2024
Suppression of neuropathic pain in the circadian clock-deficient Per2m/m mice involves up-regulation of endocannabinoid system
Wakaba Yamakawaら
8)J Pain Res. 2024 Sep 16:17:3005-3020.
Diabetic Neuropathic Pain and Circadian Rhythm: A Future Direction Worthy of Study
Baozhong Yang ら
9)Int J Mol Sci. 2025 Jul 30;26(15):7372.
Circadian Light Manipulation and Melatonin Supplementation Enhance Morphine Antinociception in a Neuropathic Pain Rat Model
Nian-Cih Huang ら
10)Front Neurosci. 2023 Feb 3:17:1095718.
P2X7 receptor-activated microglia in cortex is critical for sleep disorder under neuropathic pain
Tingting Li ら
11)Brain Behav Immun. 2019 May:78:116-130.
Stimulation of nuclear receptor REV-ERBs suppresses production of pronociceptive molecules in cultured spinal astrocytes and ameliorates mechanical hypersensitivity of inflammatory and neuropathic pain of mice
Norimitsu Morioka ら
12) Front Neurosci. 2021 Jul 2:15:705173.
Systems and Circuits Linking Chronic Pain and Circadian Rhythms
Andrew E Warfield ら
13)Int J Mol Sci. 2025 Jul 30;26(15):7372.
Circadian Light Manipulation and Melatonin Supplementation Enhance Morphine Antinociception in a Neuropathic Pain Rat Model
Nian-Cih Huang ら
14)Brain Behav Immun. 2019 May:78:116-130.
Stimulation of nuclear receptor REV-ERBs suppresses production of pronociceptive molecules in cultured spinal astrocytes and ameliorates mechanical hypersensitivity of inflammatory and neuropathic pain of mice
Norimitsu Morioka ら
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小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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