こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
高気圧に覆われて、全国的に青空が広がっているようです。
最高気温は九州から関東で30℃以上の真夏日になる所が多いのだとか。
これからは「熱中症」にも気をつけなければなりませんね。
そして、「紫外線」にも・・・ということになります・
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
「皮膚」は人体最大の臓器であり、外界との物理的・化学的・微生物学的バリアとして機能しています。
加齢に伴う皮膚の変化、すなわち「皮膚老化(skin aging)」は、しわ・たるみ・色素沈着といった整容的問題にとどまらず、創傷治癒の遅延、感染防御能の低下、皮膚癌リスクの上昇など、臨床的に極めて重要な問題を抱えて(かかえて)いる と言えます(参考1,2)
「皮膚老化」は、加齢そのものに起因する「内因性老化(chronological aging)」と、紫外線・大気汚染・酸化ストレスなどによる「外因性老化(extrinsic/photoaging)」に大きく分けられますが、両者は最終的に共通の細胞・分子メカニズムを呈するとされています (参考1,3)。
皮膚の大半の体積と力学的強度を担うのは「真皮層」であり、その構造的・機能的劣化こそが「皮膚老化」の本質であると考えられているのですね。
今回は、真皮層の中心的細胞である「線維芽細胞」の老化(セネッセンス)に焦点を当て、その機序と新たな治療戦略をお話ししてみたいと思います。
では、なぜ「皮膚老化」はその根本的な原因が「線維芽細胞」の「老化」にあると言えるのでしょうか?
真皮層に存在する「線維芽細胞」は、コラーゲン(I型・III型)、エラスチン、グリコサミノグリカン(GAG)などの細胞外マトリックス(ECM)を産生し、真皮の機械的強度を維持しています。
加齢に伴い「線維芽細胞」は「萎縮」した形態をとり、細胞外マトリックス(ECM)との機械的相互作用が低下する。
その結果、c-Jun/AP-1 経路の活性化を介して MMP-1(コラーゲン分解酵素)が上昇し、「コラーゲンの断片化」が進行するという悪循環が成立するからという理由になります(参考1,4,5)。
さらに、老化線維芽細胞は 「SASP(senescence-associated secretory phenotype)」 を介して炎症性サイトカインを放出し、周囲の組織恒常性を破壊する(参考3)。
それならは、自分の「線維芽細胞」を培養し、投与すればよいのではないか?・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、培養し増殖した「線維芽細胞」を血管内投与しても、全身の皮膚真皮へ均一に移行し、「老化線維芽細胞」を置き換えるという考えは、現在の医学的知見からは考えにくいとされています。
実際に「線維芽細胞」を血管内投与した実験は2007年にIWoodleyらによって報告されています。
VII型コラーゲンを発現するように改変したヒト線維芽細胞を静脈内投与すると、マウスの皮膚創傷部位へ集まり、VII型コラーゲンを届け、創傷治癒を促進したと報告されています(参考6)。
血管内投与された特定の「線維芽細胞」が、実験的創傷部位に集まり、創傷治癒を助ける可能性があることが示されたものですが
、創傷部位では炎症、血管透過性亢進、ケモカイン、ECM変化などが起こるため、繊維芽細胞などが細胞が集まりやすくなり、これが創傷の治癒を早めたことを確認した実験ということになります。
傷があれば、線維芽細胞はホーミング、つまり、血管内に投与された線維芽細胞が、損傷した組織から発せられるシグナルを感知し、自動的に集まって修復する能力がありますということであり、
これは、正常な老化皮膚やしわのある皮膚に血管内投与した「線維芽細胞」が選択的に集まり、皮膚を若返らせることを示したものではないと強調されているところなのですね。
それならば・・・この老化した「線維芽細胞」の活性を取り戻すには、どうしたらよいのか?・・・ということになりますね。
このお話の続きは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>5月19日
今回は、加齢に伴う「線維芽細胞」の老化をどうすればよいか?・・
・というお話をさせていただきました。
加齢に伴い、真皮層にある「線維芽細胞」の分子生物学的なミクロの変化は、どうなっているのか?・・・を見てみますと、以下のように報告されています。
p16 ↑
p21 ↑
SA-β-gal活性 ↑
SASP(IL-6, IL-8 など)↑
この組み合わせは、「老化細胞(セネッセンス細胞)」が同定される際に用いられる標準的な組み合わせとされています。
このうち、「SA-β-gal活性」は、老化細胞(cellular senescence)を同定する際に最も広く用いられる古典的マーカーのひとつですね。
そして、「老化細胞」のマーカーである「p16」が発現しています、この「p16」はG1期に細胞周期を停止させます。
つまり、「p16」の発現は細胞の老化を促進すると考えられているわけですね。さらに「p21」も発現しています。
「p16」 と 「p21 」は、いずれも「細胞周期」を停止させるタンパク質」ですが、役割・誘導機構・には重要な違いがあるとされています。
「p16」は、慢性・不可逆的老化の指標とされます。つまり、細胞分裂が進み、テロメアの長さがそれ以上は分裂できない「ヘイフリックの限界」に達したことを示しています。そして、この「p16」は、加齢に伴い指数関数的に増加すると考えられています。
それに対して、「p21」は、DNA損傷や一時的ストレス状態により、細胞分裂が停止した状態であり、「可逆的」な変化を示すものとなります。つまり。修復後に再増殖可能であるとされています。
実際に真皮層に存在する「線維芽細胞」は加齢により、p16 ↑,p21 ↑,SA-β-gal活性 ↑が認められることが多くの研究で示されています(参考7)。
では、「p21」の多く発現した「老化細胞」は、周囲の正常細胞に「老化」させる能力は小さいのでしょうか?
残念ながら、多くのモデルで、「p21陽性老化細胞」は、炎症性サイトカインやケモカインの放出等が生じる「SASP」を示すというデータが多数あります(参考8)
さらに、Wylesらが総説で指摘するように、老化細胞化した「線維芽細胞」は単に「機能不全細胞」であるだけでなく、「SASP」を介して周囲の組織恒常性(そしきこうじょうせい)を破綻させる「能動的な加害者」として作用すると述べられています(参考9)。
つまり、DNA損傷や一時的ストレス状態により、細胞分裂が停止した状態であり、「可逆的」な変化を示す「線維芽細胞」も一旦、「老化細胞」になってしまうと・・・テロメアがそれ以上は分裂できないとことに達した「ヘイフリックの限界」に達して「老化細胞化した線維芽細胞(老化線維芽細胞)」と同様の振る舞いをする・・・ということになります。
では、「線維芽細胞の老化細胞化(老化線維芽細胞)」がもたらす皮膚の構造的・機能的破綻としては、どのようなことが起きてくるのでしょうか?
これについては、以下のように説明されています。
「老化線維芽細胞」のコラーゲンI/III合成能は低下する一方、MMP-1, MMP-3, MMP-9の発現が上昇し、ECMの分解優位状態が成立すると報告されています(参考10)。
結果として皮膚は薄く、弾力性を失い、しわ形成が進行し、創傷治癒が遅延するというプロセスを辿ることになります。
Quanらは、ヒト皮膚への機械的支持(架橋ヒアルロン酸注入)が「線維芽細胞」を再活性化し、コラーゲン合成を回復させることを臨床的に示しており、 これは「線維芽細胞 ⇔ ECM」の双方向相互作用が老化制御の核心であることを示しています(参考11)。
では、「老化線維芽細胞」の対する治療とは、どのようなものになるのでしょうか?
1) NAD⁺前駆体補充療法(NMN),NAD+点滴
NAD⁺の低下はサーチュイン活性低下を介して、ミトコンドリア機能低下、DNA修復障害、SASP亢進、エピジェネティック異常をもたらす[参考12,13)。
NAD+の前駆体である「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」の補充は、これらを統合的に改善することが期待されています
(参考14)。
「皮膚線維芽細胞」においては、Changらが、「酸化ストレス」でセ「老化細胞」になってしまった「ヒト真皮線維芽細胞」に対し、「NMN」が、細胞内の「活性酸素種(ROS)」と「ミトコンドリア活性酸素種(ROS)」を低減し、NF-κB p65亢進を抑制し、SIRT1とNrf2発現を回復させ、SA-β-gal陽性細胞を減少させることを報告しています(参考15 )。
これは「NAD⁺/SIRT1(サーチュイン1)軸」の活性化が「線維芽細胞セネッセンス(老化線維芽細胞)」を実際に逆転させうることを示す重要な前臨床的証拠であると考えられています。
(ただし、ヒト皮膚における局所投与の有効性については、なお大規模臨床試験が必要であるとされています)
2) iPS細胞由来エクソソーム
iPSC由来エクソソームとは、iPS細胞が分泌するナノサイズの細胞外小胞で、タンパク質・miRNA・mRNA などを運び、親細胞と同様の再生・保護作用を「細胞を入れずに」発揮できることから、細胞フリー再生医療の有力候補とされています (参考16)
その「iPS細胞由来のエクソソーム」は、miRNA・mRNA・成長因子・タンパク質を内包し、細胞間情報伝達を担う細胞外小胞であることが分かっていますが・・・
UVB照射により傷害を受けた「線維芽細胞」および、継代培養によって自然に「老化細胞」に至った「線維芽細胞」の双方で、SA-β-gal活性、MMP-1/MMP-3発現を有意に低下させ、I型コラーゲン発現を回復させることが示されています[ 参考17,18)。
さらに「p16」,「p21」への影響をみてみますと・・・
「iPS細胞由来エクソソーム」は、老化したヒト「線維芽細胞」や他の老化モデル細胞に対して、老化マーカー(p21, p16, SA‑β‑gal)の発現を抑制して、若返り効果を示すことが報告されています。
特に皮膚線維芽細胞モデルでは、i「iPS細胞由来エクソソーム」が、老化関連遺伝子発現の回復やSA‑β‑gal活性の低下、p21/p16の発現抑制などを通じて老化表現型を改善することが明らかになっています(参考19,20.21)
さらに一部の研究ではSASP因子(IL-6, TNF-α, MMP群等)も同時に抑制されることが示唆されており、「炎症環境改善」も期待できるとされています(参考22)
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)J Cell Commun Signal 2023 Sep;17(3):523-529.
Skin aging from the perspective of dermal fibroblasts: the interplay between the adaptation to the extracellular matrix microenvironment and cell autonomous processes
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2)Biochem Pharmacol. 2017 Oct 15:142:1-12.
The impact of cellular senescence in skin ageing: A notion of mosaic and therapeutic strategies
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3)Gerontology. 2024;70(1):7-14.
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4)Arch Dermatol. 2008 May;144(5):666-72.
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5)J Invest Dermatol . 2013 Mar;133(3):658-667.
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6)Mol Ther . 2007 Mar;15(3):628-35.
Intravenously injected human fibroblasts home to skin wounds, deliver type VII collagen, and promote wound healing
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7) Int J Mol Sci. 2020 Jan 5;21(1):343.
Derivation of Cell-Engineered Nanovesicles from Human Induced Pluripotent Stem Cells and Their Protective Effect on the Senescence of Dermal Fibroblasts
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8) Mol Metab. 2023 Jan:67:101652.
p21 induces a senescence program and skeletal muscle dysfunction
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9) Gerontology. 2024;70(1):7-14.
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10) Arch Dermatol. 2008 May;144(5):666-72.
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12) Trends Cell Biol. 2014 Aug;24(8):464-71.
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It takes two to tango: NAD+ and sirtuins in aging/longevity control
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Nicotinamide Mononucleotide and Coenzyme Q10 Protects Fibroblast Senescence Induced by Particulate Matter Preconditioned Mast Cells
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16) Molecules 2024 Mar 26;29(7):1468.
The Combined Anti-Aging Effect of Hydrolyzed Collagen Oligopeptides and Exosomes Derived from Human Umbilical Cord Mesenchymal Stem Cells on Human Skin Fibroblasts
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Exosomes Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells Ameliorate the Aging of Skin Fibroblasts
Myeongsik Oh ら
18) Tissue Cell. 2026 Jun:100:103363.
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20) Int J Mol Sci. 2018 Jun 9;19(6):1715.
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Myeongsik Ohら
21) Mater Today Bio. 2023 Mar 4:19:100600.
iPSC-sEVs alleviate microglia senescence to protect against ischemic stroke in aged mice
Xinyu Niu ら
22) Mater Today Bio. 2023 Mar 4:19:100600.
iPSC-sEVs alleviate microglia senescence to protect against ischemic stroke in aged mice
Xinyu Niu ら
(筆者撮影)
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
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(新潟大医学部卒)
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